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【19】-6
いい人がいるなら会わせてほしいと彼の母親が言い、その言葉がどこかから漏れ、周防の御曹司が花嫁を求めているという噂に発展して広まった、というのがおおよその流れではないかということだった。
「実はね、原瑤子さん自身が、かつてはシンデレラって騒がれた人なのよ」
「そうなんですか?」
若い人は知らないでしょうけど、と伊藤は笑う。
「いくら美人女優って言っても、駆け出しの、そんなに有名でもない一般家庭出身の女性が、周防家当主の妻になったんだもの。当時としても、すごい玉の輿だったの。それでちょっと騒がれてた時期があって……。私はまだ小学生か中学生だったから、そんなによくは覚えてないんだけど」
周防家がどれほどの家なのかも、当時はよく理解していなかった。ただ、すごく綺麗な人が、ものすごいお金持ちと結婚したということはわかったと言った。
そして唐突に、グレース・ケリーを知ってるかと聞く。
「シッテルヨ」
エレナが答えた。
伊藤とばかり話していて悪かったと謝る。
「あ、そうだ。これ、お見舞い」
途中、地下鉄駅のそばで全国チェーンのケーキ屋を見つけ、ケーキをいくつか買ってきていた。
「アリガトウ! スパシーバ!」
エレナは目を輝かせた。横から伊藤がさっと箱を奪う。
「エレナ、太りやすいからねぇ」
「スコシ、スコシ」
エレナが手を合わせる。伊藤は苦笑した。
「しょうがないなぁ」
お茶を淹れるから待ってねと、備え付けのキッチンに向かう。
電気ケトルに水をいれながら、モナコ大公妃の話に戻った。
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