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【19】-8
「レイチャン、フトラナイ。ウラヤマシイヨ」
エレナが恨めしそうに玲の皿を見た。
「そう? 俺は、エレナが羨ましいけど……」
「ソウナノ? ドウシテ?」
だって、エレナは女の子だから。玲はぼんやり考えた。
どんなに太りやすくても、女の子だ。それだけで羨ましいと……。
女の子みたいな顔をしていると、昔からよく揶揄われた。そのことはとても嫌だったけれど、男のほうがいいと思っていたわけではなかった。別に、女の子になりたいとも思わなかったけれど。
顔は顔だし、玲は玲だ。揶揄からかう相手を憎いと思ったことはあっても、自分の顔を嫌いになったことはない。男でも女でも、どっちがいいということはなく、生きてゆくのに性別は関係ないと思っていた。
それは今も同じだ。同じはずだった。
女の子になりたいわけではない。
それでも……。
周防と生涯をともにするのは、間違いなく「女性」だろう。「男」ではない。妻となり、子どもを産み、周防とともに名のある家の未来を創造してゆく「女性の花嫁」が望まれている。それは自然なことだ。
女の子であることが、ただ羨ましいと、初めて思った。
周防のことなど、好きではない。そう思うそばから、あの広い胸に抱かれ、大きな手で髪を撫でられるのは、自分とは違う性別の人類なのだと思うと胸が痛かった。
あんなやつ嫌いだと思うのに、息ができないくらいに胸が痛い。
エレナの前で、一人でケーキを二つ食べる勇気はなく、再び箱に戻して持ち帰ることにする。
帰り際に伊藤が言った。
「さっきの天啓のこと、内容を言ってなかったけど……」
周防瑤子が受けたという運命の恋に導く天啓。
「青い蝶、ユリシスを一緒に見たんですって」
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