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【20】-1

 病院を出てスマホの電源を入れると、いきなり着信があった。知らない番号からだ。 「……はい?」  警戒しながら出ると、『どこにいたんだ?』と少し焦り気味の、聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。 「周防さん?」 『どこにいる、玲……』 「病院……。エレナの、お見舞いで……」  怪訝に思いながら、エレナというのは『SHINODA』のイメージモデルで、そのエレナは現在虫垂炎で入院中なのだと、簡単に説明した。 『そうか……』 「あの……、なんで?」  なぜ、玲の居場所をわざわざ聞くのだろう。 『玲が、いなかったからだ。シフトでは出勤のはずなのに……。店の者に聞いてこの番号にかけたが、つながらなかった』 「えーと……」  それは、そんなに慌てるようなことか?  困惑を深めつつも、いろいろと事情があって今日は休むことになった、病院にいたのでスマホの電源を切っていたと、くどいような気がしながらもいちいち説明する。 『いろいろとは?』  もういいだろう。 「詳細は、割愛します」  スマホの向こう側でため息が落ちる。  一呼吸置いて、周防が言った。 『今夜、一緒に食事をしないか……?』  玲は躊躇した。  昨夜ネットで目にした噂が本当ならば、周防には婚約を考えている相手がいるということだ。  デリケートな時期という言葉のニュアンスから、もしかするとまだ確定ではないのかもしれないが、少なくとも周防側にはその意思があるということ、周防の心はその人に向いているということになる。

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