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 午後七時に『ホテル周防インターナショナル』のロビーで。  周防との約束をぼんやり思い浮かべながら電車に乗った。  六時に人と会う約束があるので少し遅れるかもしれないと、周防は言った。 『遅れても、待っていて。必ず行くから』  耳をくすぐる声で囁き、玲が了承すると『いい子だ』と笑った。  瀟洒な造りの『周防レジデンシャル』のオートロックを抜け、コンシェルジュ・デスクの前を通ってエレベーターに乗った。  拓馬の部屋に着いて時計を見ると、約束の時間にはまだだいぶ早かった。家政婦には途中で連絡を入れたので、夕飯の準備は一人分。冷蔵庫を開け、ミネラルウォーターのボトルを出してリビングに向かった。  スマホを開いて、『SHINODA』のニュースを検索する。  一昨日からの人気沸騰ぶりが記事になっていた。今日も忙しかったに違いないと、どこか遠い気分で考えた。  テレビをつけると刑事ドラマの再放送が流れた。チャンネルを変えると、周防の婚約が近いという話題を流すお茶の間情報番組が二つ。  手持無沙汰にソファの前に立ち、玲は画面を眺めた。  なんだか、全てに実感がわかなかった。 『ケアンズ旅行の最終日……』  最後にあんなことさえなかったら。  そう言った母と姉に、玲は「あんなこと」とは何かと聞いた。二人は互いに一度目を見交わし、躊躇いがちに、けれどどこか意を決したように、当時のことを語り始めた。  翌日の便で東京に帰る、最後の滞在になる日だった。  その朝、父と姉が揃って体調を崩した。軽い頭痛と倦怠感を訴えるが、熱はない。おそらく旅の疲れが出たのだろうと母は冷静に考えた。  帰国後はすぐに仕事と学校が始まる。日本から携行した市販の頭痛薬をのみ、一日ホテルでゆっくり休もうと提案した。

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