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【20】-6
ケーキ屋の袋に母はそれを入れ、見送りに出た玄関ホールで玲に手渡した。
「そう言えば、拓馬くんのところのネックレスが、すごい話題になってるけど、お店は忙しくないの?」
「忙しいよ」
「あのシンデレラって、玲だよね」
母の後ろで、姉がさらりと言った。
「やっぱりそうなの?」
母が静かに聞く。黙って頷くと姉が笑った。
「よく、ドレスなんて着たわねぇ」
「揶揄 っちゃだめよ、理花 。何かよほどの事情があったんでしょ?」
軽く姉を窘 めてから、母は何かを思い出したように呟いた。
「あの周防さんて方……」
「麗しの王子?」
姉が口を挟む。
「ずっと誰かに似てると思ってたんだけど、さっきの話で思い出したわ」
「ああ」
姉も頷く。
「他人の空似ってあるのねぇ」
真新しい玄関ホールに午後の日が射しこんできた。
母が言った。
「あの方、亡くなったトムさんに、そっくり……」
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