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【20】-5
「ケアンズの、バタフライサンクチュアリのことを思い出して……。お母さん、キュランダっていう街でオパールを買ってたよね」
うん、と頷き、母はなぜか「大丈夫なの?」と玲に聞いた。
二階から降りてきた姉も、どこか心配そうな顔を見せる。昼食を済ませ、持参したケーキを食べながら、再びケアンズの話題を口にした。
「青い蝶を見たよね」
二人がじっと玲の顔を見た。
「玲、ほんとに大丈夫なの?」
「何が?」
母と姉が顔を見合わせる。
「玲、ポーターのお兄さんにめちゃくちゃ懐いてたのは、覚えてる……?」
何かを探るように姉が聞いてくる。
「すごいイケメンの男の子だったのよ……」
母が、なぜかひっそりと寂しげに付け加えた。
「覚えてるよ」
玲は頷いた。
「でも、名前、なんだったっけ?」
トム、と母が言い、姉が「トモさんじゃなかった?」と首を傾げる。そうだったかもしれないと母は頷いた。
「トモさんだったかも」
そして言った。
「最後に、あんなことさえなかったらね……」
「あんなこと……?」
「一緒に撮った写真が何枚かあったんじゃない?」
姉が言い、納戸の段ボール箱の中から母が探しだしてきた。
写真好きな父が撮った旅の思い出の記録は、二週間分でざっと千枚を超えていた。二百枚収納できるコンパクトなボックス型のアルバムに五箱と少し。
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