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【21】-7
『HEY ! STOP ! YOU,THERE !』
叫びながら全身でタックルし、男を道路に押し倒した。
玲は歩道に投げ出され、驚いた通行人の一人に抱き起こされた。
そして見てしまったのだ。
足を取られてもがく男が、起こした上半身のポケットからナイフを取り出し、トモの背中を刺すところを。
『トモッ!』
悲鳴が上がり人々が騒然とする。
ナイフを残して、男は逃走した。道路には背中を刺され、血を流してうずくまるトモの姿があった。
玲は意識を失った。
次に目を覚ました時はホテルの部屋にいたようだが、そのことを含め、前後の記憶が失われていた。
『お医者様は、一時的なショックによるものだろうっておっしゃって、ほかに大きな怪我もなかったから、予定通り帰国したんだけど……』
東京で精密検査を受けても、脳に異常は見つからず、心の問題だろうと言われた。診療内科では、本人が自然に思い出すまでゆっくり待つようにと言われたらしい。
『何かのきっかけで急に思い出すこともあるし、ずっと忘れたままでいることもあるって言われたわ。忘れていても大きな不都合がなければ、それでもいいと諦めるのも一つの方法だって……』
ケアンズ旅行の話題は、家の中でも慎重に扱うようになり、玲から口にしない限り、あまり話さなかったという。
『だから、玲の就職とお姉ちゃんの結婚が決まって、最後にみんなでどこか旅行に行きましょうかって話になった時、玲がケアンズに行きたいって言ったことに驚いたわ』
『理由も、一番好きな国の、一番好きな都市だからって言ったのよね。だから、私たちが知らないだけで、いつの間にか玲は思い出しているのかと思ったりして……』
それでも、やはり何も覚えていなかったと、母と姉は苦笑した。
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