118 / 191

【23】-2

 すらりと背の高い、美しい女性が玲を見つめて笑った。 『男の子では、ダメね。周防の妻にはなれないわ』  玲は後退る。  知っている。そんなこと、知っている。  走る。  階段を駆け下りる。  最後の一段を踏み外して、イチイの繁みの中に落ちた。  立場や経歴、その人の生い立ちや経済力、人種、性別、国籍、宗教、年齢……、外側を飾るたくさんの目に見える条件は、真実の前には意味を持たない。  誰かを好きだと思う気持ち。王子を想う、それだけがシンデレラの真実。  それは魔法でできた馬車やドレスとは違う。ガラスの靴は本物。  けれど……。 『シンデレラが見つかったって本当?』 『確かな筋の情報みたいよ』  確かな。  外側にあって、その人の努力や真心では変えることのできない条件。その中で、「周防家の花嫁」として、どうしても超えられないものがあるとしたら……。  真実の靴はガラスでできている。  簡単に割れる。粉々に砕けて、小さな光の粒になって、星のようにきらめく。  その光を集めてネックレスができる。  周防の左胸、心臓の上にある内ポケットから、さらりと零れ落ちる光の塊。  ――『サンドリヨンの微笑』 『男の子ではダメね』  魔女が笑う。 『おまえを女の子に変えてやろう』  瞼を上げようとすると涙で張り付いていて動かない。  カピカピの睫毛を指でほぐし、赤く腫れた瞼を持ち上げる。暗い窓にじっと目を凝らして暗さを確かていると、ドアの外から人が争う声が聞こえた。

ともだちにシェアしよう!