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【23】-3

「……ちょっと、待てよ」 「……から、……せろ」  声は玄関から廊下を通り、リビングに移動してくる。玲の部屋はリビングの奥、拓馬の部屋の隣にある。  ドンドンドン、と誰かがドアを強く叩いた。 「いい加減にしろよ」  拓馬が言った。 「だいたい、帰ってきてるかどうかもわかんないだろ」 「帰ってる」  もう一つの声が答える。 「ここにいる。玲、出てきてくれ。話をしてくれ」 「いったい、何がどうなってるんだよ」 「玲、どうして逃げたんだ。どうして来なかった……? 僕は……」 「おいっ!」  拓馬が声の主を一喝する。 「地位も立場もあるいい大人が、どういう態度だよ。いったい、何をそんなに慌ててるんだ」 「地位や立場が関係あるか。慌てるに決まってる」 「だから、なんでだよ」 「君に説明している暇はない」  埒が明かないなとため息を吐いて、拓馬がドアを軽く叩いた。 「玲、いるか?」  ベッドに起き上がり、息をひそめていると「ヘンな客が来てるんだけど」と付け加える。 「いるなら、出てきてくれ」  玲は返事をしない。拓馬が続けた。 「いきなりホテルに呼びつけられて、いますぐ家に連れていけって言われたんだ。説明も何もなしに」

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