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【23】-4
中に誰もいなかったら間抜けだぞと、声を落として拓馬が呟く。絶対いる、と周防が答えた。
「すぐと言ったのに、きみは来るのが遅い」
「俺だって、そんなに暇じゃないんだよ。特に今は、突然のブームで会社全体がてんやわんやなんだからな」
「いいから、説得を続けろ」
「命令かよ」
コンコン、と再びドアを叩き、「玲、いるなら出てこいよ」と拓馬が繰り返す。
「王子が、ネックレスを返すって言ってる。『サンドリヨンの微笑』だ。俺を呼びつけたんだから、とっとと俺に返せばいいのに、玲じゃなきゃ返さないって言い張るんだ。さっぱり意味がわからない」
最後はため息を吐くように言葉を投げ出す。
「玲……」
周防の声が聞こえた。
「いったいどうしたんだ。約束しただろう、食事をしようって……」
「……したけど」
囁くような小さな声で答えた。「いたのか」と拓馬が驚く。
「出ておいで。レストランはキャンセルしたけど、僕の部屋で一緒に食べよう。それから、少しだけ……、先に進もう。僕が言ったことを覚えてる?」
こんな時なのに心臓がきゅっと甘く鳴いた。
「なんで……」
なんで、そんなこと言うんだよ。
「出ておいで、玲」
「やだ……」
「どうして? 何を拗ねてる?」
甘い声で静かに聞かれて、泣きたくなった。
この人は、トモだ。
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