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【24】-8
「だって、玲は、僕のものだろう……?」
黒い瞳に見つめられ、心臓がドキドキと騒ぎ出す。
「出会う時期が早すぎたから、最初はこれが運命だとはわからなかった。十歳の玲は可愛かったけれど、触れて一つになりたい対象ではなかったし、愛しいとは思っても、その気持ちが恋だとは気づかなかった」
子猫のように華奢で小さな身体に、人形のように可愛い顔を載せて、内側には強いプライドを覗かせる。外見の脆もろさや儚はかなさと裏腹の尖るような内面の気の強さ、そのアンバランスさが、ある種の男の嗜虐性をそそるのだろうとは思った。
けれど、幼い玲をどうにかしようと思ったことは一度もないと周防ははっきり言う。
「触れたいと思ったのは、『サンドリヨンの微笑』をつけた玲に会った時だ」
ずっと、自分が焦がれていたものがここにあると感じた。この身体の内側に、自分の魂と呼応する魂が存在するとわかった。初めて会った時から、本当はずっと玲に恋をしていたのだと気づいた。
「父と母が出会った時、母は父が周防の御曹司だと知らないまま恋に落ちた。父の立場を知ってからは、逆に悩んだようだ。それでも、相手を恋うる気持ちをどうすることもできず、その気持ちだけで荊いばらの道に飛び込んだ」
二人で見た青い蝶の美しさに背中を押されて。
周防瑤子が後に夫となる人物とともに過ごしたのは、たった数時間だった。まだバタフライサンクチュアリが正式な営業を始める前のキュランダ高原でのロケ中に二人は偶然出会った。
恋に落ちるのに時間の長さは関係ない。
シンデレラも王子も数曲のダンスの間に恋に落ちた。つないだ手を離したくないと願い、もっとずっとこの人と一緒にいたいと願うのが恋だ。
「玲が僕のそばにいた二週間を、ずっと忘れることができなかった。ただのポーターである僕を、いつもただ真っ直ぐ見ていた。僕は、玲が好きだった」
「周防」の名を隠し、肩書きも経歴もない一人の東洋人として英語圏の国にいると、周囲が自分を見る目がまるで違うことに、嫌でも気づいた。外側を飾るものがなくなった時、果たして自分にはどれだけの価値があるのかと考えていた。
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