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「ああ」 『SHINODA』にではなく、直接『レイ』に返すと、マスコミを通して世間や拓馬に呼び掛けたのは、そのためだったと言った。  ちなみに周防は、玲が『周防ホールディングス』を辞めたと知った時、履歴書の住所を開示させ、自宅を訪ねたという。 「だが、そこに家はなかった」 「あ。実家、建て替えしてたから……」 「ああ。今は知っている……。だが、あの時は何が何だかわからず、混乱した」  十年以降も前に途絶えた縁だと、その時は一度、諦めようとした。それが、半年後には突然パーティーに現れて、そしてまたすぐに消えたのだ。 「気にならないはずがない」  おまけに、翌日ブランドショップの視察に行くと、『SHINODA』の店内に玲がいた。 『こんなところにいたのか』  驚きすぎて、それしか言葉が出なかったという。  しかも、玲は周防を覚えていなかった。 「昔は、あんなに一途に僕を慕ってくれていたのに。前の晩のパーティーでも、同じようにまっすぐな目で僕を見ていたのに……」  玲は小さかったが、十歳なら少しは記憶にあってもいいはずだと思った。昔は髪を染めていたし、立場や服装も違う。わからなくても仕方ないと思う一方で、自分は玲が女性の姿になって現れても、一目でわかったのにと思った。  傷ついたし、腹が立ったと言った。拓馬の存在にも嫉妬したという。 「そのへんから、いろいろ拗らせたわけか……」  後のことは、玲も知っている。しっかり覚えてもらうと言ってスイートに連れ込まれたり、やたら豪華な食事を振る舞われたりした。 「篠田よりも僕を好きになってもらおうと思った」 「子どもか」  拓馬と同時にぼそりと呟いた。

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