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 きっぱりと言い、それからひどく優しい顔で玲を見た。 「できるだけ、嫌な思いはさせないようにしますからね」 「大丈夫です」  玲は咄嗟に答えていた。 「何か言われても、トモがいるし……」  ぼそぼそ言うと「そうね」と瑤子は嬉しそうに笑った。そして、隣の夫に目をやり、安心したように頷き合っていた。  拓馬の部屋に居候する時、家賃や食費の相談をしたら、「バーカ」と言われて受け取りを拒否された。  周防の家に引っ越すに当たり、玲は同じことを打診した。 「社会人として……」  真面目に口にする玲を、周防はまっすぐ見つめ返していた。 「玲がそうしたいなら、それでも……」  いったんはそう言いかけたが、ふいに「篠田のところでは、どうしていた?」と周防は聞いた。家族のようなものだからいらないと言われたことを告げると、急に「嫌だ」と言いだした。 「篠田が家族なら、僕のほうがもっと家族だ。絶対に嫌だ。受け取りたくない」 「あの……」 「玲は、僕のパートナーだ。働かなくても、僕が養う」 「え、働くよ」 「働いてもいいが、僕が養う」  何だかわからないが、いらないというのなら、ありがたく甘えることにする。  荷物はそれほど多くなかった。  社会人になった時に一度実家から引っ越し、その後拓馬のところに移り、今回が三度目だ。なんだか旅人のように、すっかり身軽になってしまった。

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