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番外編 黒ブツの正体を知った日

 その日オレは、とんでもない事を知ってしまった。  オレがアナニーにハマってから、既に数か月経っている。そしてつい先日、迷いに迷っていた例のデカブツにとうとう手を出してしまったのだ。絶対無理だと思いながらも手に取ってしまう黒いディルドは、静かに佇みながらも毎回オレの脳内に語り掛けてくるような気がしてたのだ。明確な言葉ではないが、存在感そのものがオレにアピールしていると言うか何と言うか……。    使ってくれたら君を天国へ連れてってあげよう  毎回そんなメッセージを受け取っていたオレは、その黒ブツに誘導されて、新たなチャレンジャーとなる決心をつけてしまった。怖い。でもその先に天国があるのなら、是非行って(逝って)みたい。好奇心と言うのは、時として本当に厄介なものだ。一瞬だけ『今ならまだ戻れる』と言う心の声が聞こえたが、いつの間にかその声も聞こえなくなってしまっていた。オレの心の良心が、黒ブツに負けた瞬間でもある。  チャレンジャーになる決心はしたものの、実際にオレがその黒ブツを使うまでには、それから更に数日を必要とした。理由は単純。他のディルドに比べて太すぎるのだ。色もいかん。しかも薄っすらと血管が浮いているそれは、凶悪と言う表現がぴったり当てはまる様相だ。これがもう少しファンシーな色だったら違ったのかもしれない。と言うか、ディルドに血管とかって不要じゃね?  そしてこいつは、形状が限りなく本物に近いのだ。カリも部分の大きく張り出していて、自分のチンコの最大値よりも大きい。偽チンコに負けたオレのチンコは、その事実に急速に力を失い、首を垂れる情けない状態を晒してしまった。男としてかなりのダメージを負った、曰く付きの凶悪偽チンコである。  閑 話 休 題(オレは標準サイズだ)  ようやくその気になったオレが実際に黒ブツを使ったのは、とある金曜の夜であった。大きすぎて直ぐ嫌になるような気もしたのだが、万が一ハマった場合を考慮してのことである。ハマった場合はじっくり楽しみたいと思うハズだからな。週末の夜であれば、翌日のことを気にする必要が無い。心行くまで堪能できるって寸法だ。 「んっ、んっ、んっ……、ぁ、はぁ、ぁぁぁ……、あっ……。ぅぅぅ……くっ……ああああっ!」  いつものようにファンシーな色のディルドたちを使い、アナニーを堪能する。最近のオレは、三番目から五番目の三本のディルドを使って楽しんでいる。アナニー慣れしてしまったオレのアナルは、指で解さなくても三番目のディルドは飲み込めるようになってしまっていた。さすがにそれ以上のは解しが必要だから、三番目と四番目のディルドにその役割を担ってもらっていると言うワケだ。自分のアナルを自分の指で解すことに抵抗があったオレとしては、このやり方がとても気に入っている。  余談だが、ゆるゆるになるのを心配したオレは、ネットで検索したアナル体操なるものを実践している。体操なんて書いてあるが、要は意識してアナルを締める訓練だ。ゆるゆるになった後は悲惨だと言うからな。アナニー愛好者必須の体操だ。  まあそれはともかく、五番目のディルドは本当に良いカンジだ。太さも形状もオレには丁度良くて、一番感じる前立腺を刺激するにも具合が良い。最近はわざと前立線の周りだけを刺激して、疑似的な『じらし』を楽しんだりしている。じらした後の刺激は最高で、そろそろ前立腺への刺激だけで発射しそうなところまでになっている。ちなみにアナニー超上級者は、ディルドだけで射精の伴わない絶頂、つまり『中イキ』を発動することができるそうだ。アナニーも奥が深い。オレもいつか経験してみたいものである。  その日のオレは五番目のディルドを軽く堪能した後、黒ブツを手にとった。一応アナニーを開始する前に軽く洗っておいたが、それだけじゃ安心できないので、コットンに消毒液を浸み込ませて丁寧に拭き上げた。それから四つん這いの体制になって、黒ブツにたっぷりとローションを付けてからアナルにあてがった。普段は仰向けで、背もたれを使ってラクな体勢を取っているオレだが、黒ブツに限っては最初は四つん這いの方が良いと思ったのだ。一般的には四つん這いの方がラクに入ると言われている。仰向け派のオレも、さすがに最初だけは……な。 「ん……。ぅうう……っつぅ……」  呼吸を整えながらゆっくりと挿入……できなかった。太すぎて入る気がしない。世の中にはアナルセックスなんてのがあるのだから、きっと頑張れば入ると思うのだが、この太さに身体が緊張してしまっているらしい。普段ならディルド挿入時には鎌首を持ち上げているオレのチンコが、今は縮こまって震えてるような状態だ。やはりこの黒ブツは無理だったのだろう。  とりあえず正座して、溜息をつきながら黒ブツを見る。そして心の中で語り掛ける。お前は本当にオレの中に入りたいのか? ……そうか、やはり入りたいのか。何となく聞こえて来たその答えに、オレは再度四つん這いの体勢になった。もう一度黒ブツにローションをたっぷり付ける。 「ハァァァァァ……。ん、んぎぃぃぃぃ……ったい! でも入った」  ゆっくりやっていても埒が明かないと思ったオレは、呼吸を整えてから一気に突っ込んだ。痛かった。いや、現在進行形で痛い。とりあえず一番太いところが入っただけなのだが、今のオレはこれ以上突っ込む余裕が無い。浅く息をしながら痛みが落ち着くのを待つ。待ちながら、オレの頭の中にあるのは『後悔』の二文字だけだった。だってとんでもなく痛かったし、中止する場合はまた痛みに耐えながらこれを抜かなきゃいけないんだ。無理。ホント、どうしようか……。    思い出せ。お前はチャレンジャーだ    この先の天国へ向かって共に突き進もうではないか  痛みにうめいているオレに突然浮かんだこのセリフ、いったい誰がと思ったが、きっとこれは少しだけ繋がった黒ブツからの声なのかもしれない。かもしれないではなく、絶対に黒ブツからのメッセージだ。後で冷静になったときに恥ずか死ねる状況だが、かなりテンションがおかしかったオレは、このセリフに勇気付けられて前へ進むことを決心できたのだった。  痛みに慣れた頃、ゆっくり少しずつ黒ブツを動かして奥へ埋め込んでいった。一瞬前立腺をかすめたようなのだが、さすがに痛みの方が強くて快感を得ることは出来なかった。まあ最初は仕方ない。とりあえず初日は奥まで埋め込んだら、あとはゆっくり抜いて終わりにしようそうしよう。  補足ではあるが、翌日は終日アソコが痛かった。黒ブツ最凶説は本当だったのだ。  しかしオレは諦めない。ネバーギブアップである。一度始めたことを途中で諦めるのは、チャレンジャーであるオレには相応しくないのだ。 「あっ、ん、んん……、んー、あ、ぁ、ぁ、んあああああああっ……、はぁ、はぁ、ぁぁぁ」  五番目のディルドよ、スマン。申し訳無いが、君は本命からスペアに降格だ。今までありがとう。これからは新本命を挿入する前の慣らしとしてヨロシクな。  浮気なオレですまないと思うが、一度知ってしまった快感はもう忘れられないのだ。初めて黒ブツを使ってから約二か月、今のオレはこいつの虜だ。よく今まで五番目で満足していたものだと思う。太さと言い長さと言い、馴染んだ後のオレに齎された感覚は、まさしく天国だったのだ。おかげさまで今のオレは、チンコに触らずとも後ろの刺激だけでイける。これは五本目のディルドでは達成できなかった領域だ。  そして今のオレには野望がある。それはアナニー超上級者になることだ。黒ブツを相棒に、射精を伴わない絶頂を味わいたい。きっとそこまでの道のりは険しいだろう。でもコイツと一緒なら、いつかたどり着けるに違いない。オレは鼻穴を膨らませながら、ぐっと右手を握りしめた。左手にはもちろん黒ブツである。よろしく相棒! 心の中でそう呟きながら、オレは黒ブツに誓いのキスを贈った。あ、もちろん消毒した後だからな。  そんなある日のこと。  そろそろローションと消毒液を購入しなければとサイトを開いたオレは、以前から気になっていた『プレミア会員』のボタンをクリックしてみた。プレミア会員になるには入会金を支払うか、サイトでの一定金額以上の商品購入が条件となる。オレはローションと消毒液のまとめ買いのおかげで、いつのまにかプレミア会員になってたようなのだ。  黒ブツに満足していたオレがプレミア会員向けページを開いたのは、単なる偶然、気まぐれである。チラ見してすぐ閉じようと思ったのだが、そこに『贈答用アナニーセット』と言う文字を発見してしまった。つまりこれは、今オレが持っているアナニーセットのことだ。値段等も気になったので、迷わずそのページに進んでいった。そして……。 「マジかよ……」  贈答用アナニーセットには何種類かあって、その中でも一番高いヤツ――オレがアイツからもらったやつだ――はかなりの値段だった。そしてオレは、このページで初めて黒ブツの正体を知ったのだった。  アイツは三か月ほど前に帰国したのだが、手違いだかトラブルだかがあって、再び向こうに行ってしまっていた。帰国すると言う連絡が無いから、アイツと再会するのは本当に何時になるのか分からない。新しい扉云々とメールには書いてあったが、結局その扉についても保留のままである。  だが……、もしかしたらこれは一生保留のままで良いのかもしれない。と言うか、この事実を知ってしまったオレは、アイツに会うのが怖い。何だよこれ。これはアイツの策略なのか?  黒ブツの正体は、アイツのチンコを型取りしたものだった。

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