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雨が降りそうだったから 1

小腹が減ったのでコンビニに行こうと思い部屋を出た。 何となく空を見上げれば雲行きが怪しかったので傘を持って出ると案の定、帰ろうとした頃に雨が降り始める。 「天気予報じゃ雨だなんて言ってなかったのになぁ」 雨の日はあまり好きじゃない。足元はぐちゃぐちゃになるし、湿気も多くて鬱陶しい。 どうりで今日は髪の毛がもさっとしてるはずだと、頭を掻きながら持ってきていた傘をさして帰ろうとしたところでふと時計を見てみると、そろそろ修平が家庭教師のバイトから帰ってくる時間だった。 (あいつ、傘持って行ってたかな) 天気予報では降るとか言ってなかったしきっと持ってないと思う。そうしているうちに雨足も激しくなり、とうとう本降りとなってきてしまった。 急な雨だし、傘もなかったら困るだろうと思って、駅はコンビニとは反対方向だったけど外に出たついでだし迎えに行くことにした。 ** 駅に着くと、そこには急な雨に傘を持っていない人達が空を見上げながら途方にくれていた。 暫くすると改札から出てくる修平が見えたので声を掛けながら駆け寄ると、修平も俺に気付き手を振り返す。でも、その反対の手には真っ赤な折りたたみ傘を持っていた。 (あ、傘持ってたんだ……) するとなんとなく傘がないだろうから迎えにきたって言いにくくなって、タイミングを逃していると歩いてきた修平が俺の顔を覗き込んだ。 「千秋? どうしたの?」 「いや、別に。コンビニ寄った帰り」 咄嗟に言うとまた修平は首を傾げる。 「コンビニって駅とは反対方向だよね?」 「コンビニ行くのに出てきたついでに駅前の本屋に寄ろうと思って来たんだよ。そのついで!」 「そっか」 すると修平はにっこり笑いながら真っ赤な折りたたみ傘を広げ始めた。 「そんな赤い傘なんて持ってたっけ?」 「帰ろうとしたら雨が降って来てね、生徒の親御さんが貸してくれたんだよ」 「そっか……」 思わず残念そうな声が漏れると、修平が傘を広げる手の動きを止めて振り返った。 「もしかして雨だから迎えに来てくれたの?」 「ち、ちげーよ! だからコンビニと本屋のついでに通っただけだって」 結局、空振りだったわけだから迎えに来たなんて言うのが恥ずかしいのもあって、そう言い返しながら自分も傘を開く。 「じゃ、帰るか!」 しかし、なぜか修平は俺のことを呼び止めた。

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