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キスはどこに? 1

「修平! ちょっとそこを動くなよ!」 今日は特に用事のない土曜日で、撮りためていた番組を観ていた。 それも一段落して、飲み終わったコーヒーカップを洗おうとシンクに置いた所で千秋がそう言いながら僕に近づいてきたのだ。 「どうしたの?」 首を傾げると千秋は眉間にしわを寄せ少し不機嫌そうに僕を見る。 「いいから絶対に動くんじゃねぇぞ! そんで腕を出せ!」 「腕? どうして?」 「いいから出せって! 早く袖をまくれ!」 「え? なんで?」 「なんでもいいから! まくって腕を出せ!」 さっきまで何やら熱心にスマホを見ていたかと思えば、いきなり腕を出せとか腕まくりしろとか一体何の意味があるんだろう……。 疑問ばかりだったが言われた通りに袖をまくると、今度は何故か少し緊張した面持ちで僕に近付いてきた。 「どうして腕まくり?」 「いいから黙ってろ」 腕まくりのことも、どうしてそんな表情をしているのかも気になったが、理由は意地でも言わないつもりのようだ。 仕方なく黙って言われた通りにしていると、千秋はこわばった表情のままゴクリと唾を飲み込み、僕の腕を引き寄せると一瞬だけ僕の方を見た。 しかし目が合ったのは一瞬だけで、また伏せられた視線はそのまま、今度はその腕に唇を押しつけるようにキスをしてきた。 「え? キス?」 思いもしなかった出来事に唖然としていると、途端に顔を赤くした千秋はバタバタと自室のドアノブに手を掛けた。 そして何かを思い出したかのようにはっと振り向くと、頬を真っ赤に染めたまま。 「絶対にググったりすんじゃねーぞ!」 そう言い残してバタンと勢いよくドアを閉めてしまった。 そういえばさっきまでスマホで何かを熱心に見ていたのを思い出す。そこに何か書かれていたのか。そして何を調べていたのか。 「調べるなって言われてもね……」 そんなこと言われれば、余計に気になるものなのに。 そういうところがやっぱり可愛いなって思いながら自分のスマホを手に取った…───。

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