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チョコに溶ける 1

朝起きると、いつもならまだ隣で眠っているはずの千秋の姿が見つからず、トイレかな? なんて思いながらリビングに行くと千秋がキッチンで何かをしていた。 今日は二人とも大学に行く日だが、出かける準備をするにしてもまだ早いこの時間に、いつもギリギリまで寝ている千秋が起きているのも珍しい。 それに何やら集中しているような真剣な顔つきも気になって声をかけた。 「おはよう。何してるの?」 する余程驚いたのか身体をビクッと震わせると同時に目を泳がせた。 「の、喉乾いたからお茶飲もうと思って。お、お前起きるの早くない?」 「僕はいつもこの時間に起きてるよ」 「えっ!? いつもこんな早い時間に起きてんの!?」 今度は目を丸くする千秋のそばに行こうとするとあからさまに眉をひそめた。 どうやら来て欲しくないようだ。 「お茶入れてるの? コーヒーも入れる?」 「じ、自分でするから。お前はそこで座っとけ、こっち来んな」 「でも何か作ろうか? お腹空いてない?」 「後でいいって。いいから座っとけって言ってんだろ!」 どうやら僕がキッチンに近付くのは具合が悪いらしく、どうにか僕をリビングのソファに座らせたがる。 何故焦っているのかは気になるけどそのままキッチンには近付かずソファに座り、テレビをつけた。 昨日はバレンタインデーだった。 今年は千秋のリクエストで、テレビの特集で見たというフォンダンショコラを作ったんだけど、かなりの量のチョコレートを使ったから部屋はまだ甘い香りに包まれている。 暫くは消えないかもしれない。 そんな甘ったるい香りに包まれながら思い出すのは昨日の出来事で、思い出すだけでも顔が綻んでしまう。 僕は昨日、ちょっとした嘘をついた。 それは千秋がフォンダンショコラを完食したあとのこと。 「中身のチョコレート、ちょっと隠し味入れてみたんだけどわかった?」と聞いてみた。 「え? 隠し味? よくわからなかったけど、すげー美味かった!」 「そう。それなら良かった」 満面の笑みで返す千秋に目を細めると、今度は千秋が僕の顔を覗き込む。 「で、隠し味ってなんだ?」 「気付かなかったならいいんだよ。隠し味なんだから」 そう言われるほど気になって仕方ない千秋は、教えろって突っかかってくる。 それでついた嘘というのが……まぁ、ちょっとした出来心だったんだけど、面白くなって耳元で内緒話するみたいに囁いてみたのだ。 「隠し味にね、ブランデーが入ってるんだよ」って。

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