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モテ期到来 1
今日は2月14日。
いつもバレンタインデーにいい思い出なんてなかった俺だが……。
今年は何かが違う気がする。
最初、通学中に女子がチラチラ俺のことを見てそわそわしているように感じたのは気のせいかと思った。
でも上履きに履き替えているときに他のクラスの女子から今日は移動教室があるのかしつこく聞かれたし、今も廊下で放課後の予定を聞かれている。
聞いてくる女子はみんなそわそわ落ち着かない様子でほんのり頬を赤らめているように見えた。
これはまさか……と感じながら教室に入ろうとすると同じクラスの女子から声をかけられた。
「ねぇ、今日って放課後はすぐ帰るの?」
「え? うん、帰るけど」
「そう。誰かと予定でもあるの?」
「いや、普通にいつも通り修平と内川と帰ると思うけど」
「……ふーん」
そう言うとその子は教室に入って行き、女子のグループの輪に加わった。
……やっぱり今年は何かが違う!
慌てて自分の席に鞄を置くとそのまま修平と内川のところに行った。
「やばい、俺モテ期到来したかもしれない」
その発言に修平は微笑むだけで、内川にいたっては大笑いした。
「唐突に何言ってんの?」
「俺だって気のせいかもって思ったんだ。でも気のせいじゃないと思う!」
「何があったんだよ?」
朝からの出来事を話そうとした時。
「新藤くん」と呼びかける声が聞こえると同時にクラスの女子が一斉に声のした方を向いた。
呼びかけたのは違うクラスの女子で、数人の友達と一緒に来ているようだった。
きっと修平にチョコレートを渡すつもりなのだろう。
修平が静かに立ち上がると内川が話の続きを聞きたがったので、今日の朝からの出来事を話したのだが、話終わるまでもなく大笑いされた。
「お前さ、それって……」
内川が言いかけたところで、修平が手ぶらで戻って来る。
「あれ? さっきの子たちチョコレート渡しに来たんじゃないの?」
内川が聞くと修平は柔らかく微笑んだ。
「恋人がいるから受け取れないって言ってきたんだよ」
その発言に心なしかクラスの女子から落胆のため息が聞こえた気がするが、修平は気にすることなく「さっき千秋が言ってたこと教えて」と目を細めた。
「聞いてくれよ。新藤! 柏木ったら勘違いしててウケる」
「勘違いってなんだよ! 俺だって最初は疑ってたって言っただろ!」
ムッとしながら朝からの出来事を修平にも話したのだが、修平にまでクスッと笑われてしまった。
「なんだよ、二人して」
「よく考えてみろよ。それってさ、みんな新藤のこと聞いてるんだと思うぞ」
「はぁ?」
「新藤に直接聞けないから柏木に聞いてるんだって。俺だって昼はどこで食べるのかって聞かれたし。俺らが新藤と仲良いの知ってるから新藤の動向探られてんだよ」
「じゃあ、朝見つめられてたのは?」
「それを柏木に聞くか、もしくは俺に聞くかで迷ってただけじゃね?」
そ、そんな……。
力なく机に突っ伏すと、また二人に笑われ散々だ。
「新藤は今日、彼女とデート?」
「うん。一緒に過ごす予定だよ」
「本命チョコ楽しみだな」
「僕は作ってあげる方が好きだから僕が用意したのを美味しそうに食べてくれるだけでいいけどね」
「手作り⁉︎ すげー、やっぱりこれからの男は料理も出来なきゃ本物のモテとは言わないのかもな! おい、聞いてるのか柏木?」
「うるせーよ」
怪訝そうに眉をひそめると、修平と目が合い、修平はそんな俺を見て柔らかく微笑んだ。
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