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新藤くんと東海林くん 1
四人で旅行に行った朝。僕が起きた時には、隣に千秋の姿はなかった。
航くんもいなかったので、一緒にに朝風呂でも行ったのだろう。
あまり朝が強い方ではないのに、旅先だからいつもより早起きしてしまったであろう千秋のことを考えると可愛いなって頬が緩んだ。
(僕も朝風呂に行こうかな。でも、もうすぐ帰ってくるかもしれないし待ってようかな……)
そんなことを考えていると、東海林も起きてきてノンフレームの眼鏡を掛けると、座卓の上に置いてあったペットボトルの水に手を伸ばしこちらに視線を向けた。
「あれ? 千秋たちは?」
「朝風呂でも行ったんじゃない?」
「ふーん。じゃあ、お前は置いてかれたのか?」
蔑むようにクスクス笑う顔を見るのは決していい気分ではないが、僕は表情を変えない。
東海林のこういう態度は今に始まったことではないし、反応するだけ無駄だからだ。
「相変わらずの能面だな」
「生まれつきの顔だよ」
無表情の僕がおかしかったのかニヤリと笑うと鬱陶しそうに前髪をかきあげながら東海林が立ち上がる。すると、浴衣の袖から何かが落ちた。
視線を移すとそれは三枚のコンドームで、その見覚えのあるパッケージに思わず微かな不快感がよぎる。
それは、千秋が買わされたというコンドームだったからだ。
顔には出すまいとしていた不快感だったが、そんな僅かな変化も東海林は見逃すことはなくニヤリと笑った。
「これな、千秋に買わせたんだよ。初めて買ったんだと。オドオドしながらレジに持って行っててウケた」
「千秋にそういうことさせるの辞めてくれるかな?」
「どうしてそれを新藤に言われなきゃいけない? お前は千秋の保護者かよ」
「人の反応をみて楽しむ性格を直すべきだと言ってるんだよ」
すると相変わらず何かを見透かすような目で笑いながら東海林が言った。
「それはお互い様だろ」
そう言いながら少しだけ東海林の表情が曇った気がしたが、気にしないでいると程なくして洗面所から水の音が聞こえてくる。
しばらくして、顔を洗った東海林が戻ってくると僕の正面に座り、視線を少しだけ外した。
「なぁ、佐々木にあいつを紹介するってどういうつもりだよ」
何を言い出すのかと思いきや、その話か。
東海林が言う“あいつ”とは東海林の元彼女の藤原さんのことだ。
東海林は口には出さないものの、前々から藤原さんに対して少なからず未練があるように見えていたのだが、やはりそのようだ。
彼らは一年ほど付き合っていたらしい。
半年くらい前だっただろうか、学校帰りに藤原さんに呼び止められ、別れたことを報告されたのだ。
正直、二人の付き合いなんてどうでも良かったし、別に東海林に嫌がらせをしたいから航くんに藤原さんを紹介したわけでもないんだが、東海林はこのことに関して含みを持った言い方をする。
「女の子の知り合いって藤原さんしかいないし」
「いや、それでもあいつは無しだろ。柔道有段者だぞ?」
彼女が柔道有段者ということに何の関係があるというのか。
ただ気にくわないだけのくせに、普段は言わない回りくどい言い方をするのはやはり未練からか。
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