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新藤くんと東海林くん 2
「それ関係ある? 何か気に食わないならはっきり言えば?」
「気に食わないって誰が言った?」
「態度に出てるけど」
「お前、性格悪いぞ」
「東海林に言われたくないね」
そんな話をしていると東海林がため息をついた。
「新藤はさ、俺のことどう思ってるわけ?」
「どうって友達」
「ひでーやつ……」
「じゃあ、どう言って欲しかったわけ?」
すると東海林は渇いた笑いをあげ、髪をかき上げた。
「まぁ、新藤のそういうとこも気に入ってるけど」
そう東海林が呟くように言った矢先。
バタンと音が響くと同時に視界がぐるりと回り、次の瞬間には僕は天井を向いていて、目の前には僕を見下ろす東海林がいた。
一瞬の隙をつかれ、技を仕掛けられたんだと思った。そして、同時に彼女の言葉を思い出したんだ。
──半年前に藤原さんと話をしたとき、藤原さんは言っていた。
『前にね、東海林くんにせがまれて寝技を教えたことがあったのよ。東海林くんのことだからきっと面白がって新藤くんに仕掛けると思うの』
まさにその通りになったわけだ。
目の前には僕に技をかけて得意げな顔が見える。自分が優位な立場に立ち、人を見下す目だ。
忠告されておきながらまんまと寝技をかけられてしまったことは悔しいが、やはり藤原さんの言ったとおりかと思ったら急に可笑しくなってきて笑いがこみ上げてくる。
「何笑ってんだよ」
「いや、別に。さすがだなと思ってね」
「は?」
東海林の寝技がさすがという意味ではもちろんなく、さすがなのは藤原さんのことだ。
──あの時、藤原さんはこうも言っていたんだ。
『技をかけられるだけじゃ悔しいでしょう? だからうちの道場に来てくれたら返し技教えてあげるわ。まぁ、無理にとは言わないけれど』
次の瞬間、バタンッと部屋に畳の音が響く。
そして今度、見下ろしていたのは僕の方で。
隙だらけだった東海林に返し技をかけると見事に決まったのだ。
すぐさま返し技で逆に劣勢になったときの東海林の顔ったらなくてまた笑いが込み上げる。
藤原さんの言ったとおりの展開が面白くて笑っていると、東海林も誰が後ろで僕に返し技を教えたのかを悟り渇いた笑いを響かせた。
「お前にやられるとかありえない」
「自分のが上だと思った?」
「当たり前だろ」
「藤原さんに一杯食わされたね?」
「ふざけんな、もうどけよ」
───…
それにしてもいまだに不思議に思うことだが、千秋はこれのどこをどう見たら僕が東海林を押し倒しているように見えたのだろう。
いまだにこれだけは不可解だ。
《新藤くんと東海林くん・終》
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