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春待つ蕾 1
今日はよく晴れた日だった。
雲ひとつない青空は門出を祝うがごとくどこまでも光に満ち溢れているようだ。
まだ少し肌寒いけどさわやかな風か吹く三月下旬。
卒業式を終えて校庭にある一本の大きな桜の木を見上げれば、青空をバックに見る蕾はまだ硬そうで咲くまでにはもうしばらくかかりそうだったけど、この桜も来月には満開に咲くのだろう。
「内川くん! 柏木くん!」
声のする方へ視線を移すと手を振って塚本が走ってくる。
「ごめんね。ホームルームが長くて」
「大丈夫。俺たちも今来たばかりだから」
内川が答えると塚本は首を傾げながらキョロキョロと周りを見回した。
「あれ? 新藤くんは?」
「あ、修平は……」
そう言って俺が指差す先には、女子たちに囲まれた修平がいてそれを見た瞬間、塚本も大きく頷いた。
「今日が最後だからね」
みんな修平が県外に進学することは知っていてさっきから人が絶えない。おそらく同学年だけでなく後輩も混ざっている。
「みんな新藤くんのネクタイが欲しいんだろうね」
卒業式の定番といえば第二ボタンと聞くけど、うちの高校はブレザーなので第二ボタンの代わりにネクタイを貰うというのが定番だった。
「でも、新藤は絶対あげないだろう?」
「わかっていても、もしかしたらくれるかもしれないって思うんだよ」
「そういうものなのか?」
「最後だから後悔するより当たって砕けろ的な感じかな」
塚本の言うようにラストチャンスとばかりに修平の周りには次々に人がやって来たが、修平の鉄壁のガードは揺らぐことはなく、相変わらず写真嫌いで通しているので写真も断りながらにこやかにあしらい暫くするとその輪から離れて戻ってきた。
「ごめんね」
しかしその首にはなぜかネクタイはなく、それに気付いた内川が修平に尋ねた。
「あれ? ネクタイは?」
もしかして誰かにあげてしまったのか? と思った矢先、修平はにこやかに笑った。
「あぁ、予め外しておいたんだ」
そう言ってポケットから折りたたまれたネクタイを取り出してまた結んだ。
「彼女にあげるのか?」
内川が茶化すと修平は微笑む。
「欲しいって言ってくれたらあげようかな」
そう言いながら俺に笑いかけた修平を見て、塚本がいきなり何かを思いついたかのように発狂した。
「ああー! 鉄壁のガードでネクタイを守り抜いた新藤くんが、みんながいなくなった校庭の桜の木の下でお互いのネクタイを交換し合うとか萌える! 『千秋のために取っておいたよ』とか言って」
「なんだよそれ」
塚本は俺のツッコミなどお構いなしに妄想を繰り広げた。
「でもでも! 強引に交換しちゃうっていうのもいいかもしれない! 抵抗する柏木くんのネクタイを無理やり奪って自分のネクタイを結んで『千秋は僕のだよ』みたいなのもやばい!」
「勝手に妄想すんな!」
塚本は俺の言葉など無視してさらに妄想を膨らませていた。
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