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春待つ蕾 2
そんな相変わらずの妄想力に呆れていると、「こういう感じ?」と言いながら修平が俺の肩を押すと桜の木に身体を押し付けるようにして俺のネクタイを緩めた。
「なにすんだよ」
「ネクタイ交換しようかと思って」
「嫌だ!」
「柏木くん! その調子で抵抗して! 新藤くんは壁ドンならぬ幹ドンでお願いします!」
修平は俺の背後の桜の木に手をつくとまたネクタイに手をかける。
「おい! やめろ」
悔しくも素で塚本の妄想のように抵抗していたことにも気付かず、目を輝かせる塚本の前で愉しそうな修平にあっという間にネクタイを取られてしまった。
妄想が目の前で具現化されて塚本はたいそう満足げであり、内川も嬉しそうにしていて俺だけ頭が痛い。
そして修平は軽やかな手つきで自分のネクタイを緩めると今度はそれを俺の首へと結んだ。
「もう、なんなんだよ」
呆れて抵抗する気も失せると、柔らかく微笑んだ修平は俺にだけ聞こえるくらいの声で囁いた。
「あとで僕にも結んでね」
「嫌だよ」
そう言ったのににこやかなままの修平は塚本の方に顔を向けると「千秋は僕のだよ。だったかな?」そう言いながらまた俺の方を向き揶揄うような笑顔を見せた。
「ひゃあああああ! 新藤くん! 卒業記念をありがとう!」
「卒業記念ってなんだよ!」
「卒業してからもこれだけで私は数ヶ月は確実に生きていける」
「そんなのなくても生きろよ!」
内川が爆笑している横で塚本が何やらぶつぶつ呟きながらいつものようにノートに書き込みをして時折発狂したりしていると修平が俺の髪をそっと撫でるように梳いた。
「こうやってみんなで騒げるのも今日までか」
「塚本の妄想に付き合わなくていいのはせいせいする」
「そう? 僕は結構楽しかったけどね」
「お前だけだよ。楽しんでるのなんて」
ふと会話が途切れると、爽やかな風が吹き枝を揺らした。
「色々あったけど、高校生活も最後だと思うと寂しいね」
「まぁな」
「たくさん思い出があるからね」
感慨深そうに修平が校舎を見上げるから、俺も一緒になって見上げる。
「最初は千秋がずっと僕に反抗してて可愛かったよ」
「う、うるせー。黙れ」
ふふっと笑うと修平が俺に寄りかかるように肩を寄せた。
「千秋に出会えてよかった」
「なんだよ急に」
「千秋に出会えたから、この高校を受験してよかったなぁって思い返していたんだ」
「大袈裟だな」
「大袈裟じゃないよ。千秋が思っている以上に僕の人生が変わったんだからさ」
「そういうところが大袈裟だって言ってんだ」
茶化していないと恥ずかしくなることを修平が言ってくるものだから俺は眉間に皺を寄せ、不機嫌そうに俯けば、それを見てまた修平はクスッと笑った。
「でも来月からは一緒に住めるから楽しみだね」
俺たちは大学進学を機にルームシェアすることになっていた。実家を出るのは正直、ちょっと不安ではあるけどやっぱり新生活を思うと心が躍るし楽しみだ。
しかし、慣れ親しんだ校舎を後にして卒業するのはやっぱりなんとなく物寂しいものがある。
けど、それは同時に新たなる門出を意味していて、まだ硬そうな蕾の桜の木をバックに撮った写真のみんなの表情はとても晴れやかだった。
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