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春待つ蕾 3
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そして時は過ぎ、蕾だった桜が満開になった頃、俺たちは大学の入学式の朝を迎えていた。
今日から俺たちは同じ部屋から別々の大学へと向かう。
真新しいスーツに腕を通して新しいネクタイを締めると気持ちが引き締まった気がした。
「そろそろ時間だな」
「入学式が終わったら電話して。母さんが千秋に会いたいって」
そんな話をしながらおろしたての革靴を履いた。
そして玄関のドアを開ける前に向かい合ってお互いのスーツ姿を見る。
高校の制服もブレザーだったから服の形としては見慣れているはずなのに、印象は全然違って不思議と背筋が伸びる気がした。
すると俺のネクタイが曲がっていたらしく。
「千秋、ネクタイ曲がってる」
直すために修平が手を伸ばしたので、やってくれとばかりに顎を上げると突然修平の表情が綻んだ。
「何笑ってんだよ」
「素直だなって思って」
「いつも素直じゃなくて悪かったな!」
「そういう意味じゃないよ。前にもさ、僕が千秋のネクタイが曲がってるって言ったとき、千秋はどうしたか覚えてる?」
修平の言ってる意味を理解して罰が悪くなる。
はっきりとは覚えてないけど、修平のことをいけすかないやつだと思っていた時期だ。どんな反応をしたのかは容易に想像ができた。
「笑いたきゃ笑え」
「嬉しいなぁってただ噛み締めてただけ」
「なんだよそれ」
気恥ずかしくて不機嫌そうに俯くと修平は俺のネクタイを直して、その拗ねた瞼にそっとキスをした。
「千秋、僕のも直して」
「曲がってないじゃん」
「曲げたら直してくれる?」
「……それならやってもいいけど」
修平がわざとネクタイを曲げたので渋々といった表情で直してあげるけど、直している間にやってもらいたいからってわざと曲げるなんてって笑えてきてしまった。
「そんなにおかしい?」
「おかしいに決まってんだろ。わざと曲げる奴があるか!」
すると笑っている俺を見て修平もまたにこやかな笑顔を浮かべた。
そして俺のことを抱きしめた。
「千秋、ありがとう」
「ネクタイ直しただけで大袈裟だな」
ちょっとかしこまった言い方に聞こえて、それが少しおかしくてまた笑うと修平はさらに強く抱きしめてくる。
「修平?」
「ありがとう」
すると耳元で優しい声が響いたんだ。
“好きになってくれてありがとう”
これからもよろしく。
改まって言われるとほんと照れる。
こんな不意打ちみたいなのは余計にだ。
不器用だから声に出して言うことはできなかったけど、俺も同じ気持ちなんだってことが伝わるように、俺も修平の背中に回した腕に力を込めた。
今日も抜けるような青空だった。
「いい天気でよかったな」
卒業式の日と同じように雲一つなくどこまでも続く青空は、本当に俺たちの門出を祝ってくれているような気がして、その爽やかな空気を目一杯吸い込み、
俺たちは同時に新しい一歩を踏み出した。
《春待つ蕾・終》
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