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第6話
そんな風にして疲れ果てた体を投げ出し眠りに入ろうとしたタイミングで、怒らないでほしいんだけど、と前置きして作弥が話し出した。背を向けて寝ようとしていた俺にくっついて体を触っている辺り、もしかしたらまだし足りないのかもしれない。
「実はさ、最初は俺、レイヤーなら簡単にヤれるって聞いて適当に誰か引っかけようと思ってたんだけど」
「ふぅん」
やっぱりそうだったんだ、と、にしては妙にアニメに詳しいなという思いが半々。けれど口を開くのがだるくて適当な相槌で先を促す。
「そのために適当なアニメさらっと見ておこうと思ったら、話が面白くてハマっちゃって」
あれも見たこれも見たと挙げられるアニメの名前は、有名なものからコアなものまで様々。なんだ。ナンパ目的から始まった新規のオタクじゃないか。しかもチョイスからして割と好みに近い。
「せっかく話せるようになったし、誰かいい相手いないかと思って回ってたら、好きなキャラやってる美人がいてさ。本当は徐々に距離詰めようと思ったんだけど、なんかいい流れだったらとりあえずヤっちゃった。すげぇラッキーでした」
いい話のようでいて根がチャラい。まあそれを狙った俺も人のことは言えないけれど。
なんとも嬉しそうに俺を後ろから抱きしめる作弥は、一呼吸置いて窺うように耳元に唇で触れた。
「……あのさ、『鉱物学園』って知ってたりする?」
「知ってるもなにも、俺が普段やってるジャンル」
「え、誰やってんの?」
「琥珀王子」
問われたのは宝石をテーマとした名前の男だらけの学園ものアニメ。同時にゲームとなっていて、流行っている場所ではかなりの人気がある。俺のメインジャンルの一つ。その中では自分の容姿と比較的似ている、王子と呼ばれるキャラを主としていた。どうやら作弥はそこにも手を出していたし、なんなら推しキャラだったようだ。
「マジか。最高に似合ってるじゃん!」
テンション高く抱きしめる腕に力を込めることで嬉しさを表されて、苦しさに喘ぎながらその腕を外して代わりに向かい上がるようにして起き上がる。すると作弥も同じように起き上がり、子供のようにキラキラ輝かせた瞳を俺に向けてきた。
「これ言うとやばい奴と思われそうだからここだけの話だけど、俺あのキャラぐちゃぐちゃに犯したいと思ってるんだよね。絶対泣いた顔似合うと思うんだよ」
「すげー変態っぽいけどすげーわかる」
作弥のそれはBL的な思考とは少し違うのかもしれないし、どうやったってそれはそんな風に目を輝かせて語る内容ではないけれど、その感覚はとてもわかる。なんならその手のものはナギさんも描いてるしランさんも買い漁っている。
そしてそれを想像してみてぞくりときてしまったのは、そこに自分を当てはめてしまったから。
「今度、やってみる?」
思わず窺うように聞いてしまったそれは、予定外の次の予定。言外にもう一度会おうと言っているようなそれに、作弥は少し驚いた顔をしてから腕を組んで難しい表情で考え込んだ。
「……めちゃくちゃやりたいけど、やりたすぎてすぐはもったいない気がする」
「その気持ちもよくわかる」
どうやら立派にオタクとして育っているようで、その姿勢には賛同して深く頷いてしまう。
「とりあえず、それより前に素の格好でしたい」
「え、あ……」
だからそれは不意打ちだった。
「そんでもってそれより前に普通にデートしたいし、まず付き合ってほしい。……いきなりヤっちゃったけど、改めて好きになりました。もっと深く知りたいので付き合ってください」
ぺこりと頭を下げられストレートな告白をされて、予想外の展開に戸惑ってしまう。
セフレどころか、一回限りの付き合いのつもりだったから、普通に付き合うなんて選択肢思い浮かべてなかった。
「いやでも、作弥かなり遊んでそうだし、イベントにはヤれる相手見つけにきたんでしょ?」
「……まあ、発想の元はそれだったのは本当に謝りたいし、男女ともに経験人数が多いのは認めるけど」
元々の目的がナンパ男を逆に引っかけて遊んでやろうと考えていた俺だから、こんな展開はその策略に敗北したような気がしてどうにも釈然としない。
こんな出会い方をしてまともに喋るより前に体を繋げているんだから、良くてセフレだろうと思っていたんだけれど。
「趣味が合って、それに対する考え方が似ていて、なによりも体の相性が抜群ってのは付き合う理由にならないか?」
「……なるなぁ」
「だろ?」
そうやってごく当たり前のような条件を並べられれば、断る理由がない。
付け加えるなら、顔が好みのイケメンで、テクニックがあって絶倫でアニメの好みも合うなんて、これ以上の相手はいないだろうってくらい。
「我ながらチョロいな……」
「お互い様だろ」
結局は考えていたものと別だったとはいえナンパ男に呆気なく陥落した自分を情けなく思いつつ、それでも作弥の言いざまにそれもそうだと笑って、ぱったりそのたくましい胸に倒れ込んだ。
まあ、ナンパ男を一人退治したってことで許してもらおう。
……そうと決めたら、まずやることは一つ。
「うおっ、と?」
力いっぱい作弥の体を押して、その場に倒せばおわかりになるだろう。
そう、おかわりです。
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