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第1話 前書き(史時)

どれだけ外堀を埋められたって、オレは騙されない。 お前、ホントはオレじゃなくて兄ちゃんたちに見惚れてたろ? きっと今は、むきになってるだけなんだ。 オレが振り向いたら、きっと飽きるよ。 だって、オレはすげー平凡だから。 兄ちゃんや姉ちゃんたちみたいに、キラキラしたとこはどこにもない。 平均的な身長に、これといったった特長のない容貌。 団体の中に紛れたら、家族でさえオレを見つけられないんだ。 運動会や発表会の動画は、別のやつが真ん中に映っていた。 親が申し込みした写真は、他の子のだった。 愛がないわけじゃなくて、オレがそれだけ目立たないってだけなんだけど。 オレはそれくらい目立たないしつまらない存在だから、無理に手に入れなくたっていい。 いつか……きっとすぐに、後悔することになっちゃう。 愛の告白に、いつものようにとうとうと訴えを返されて、僕は少しばかり腹が立つ。 さて、どうしてくれようか。 僕が大事に思う、八木 真秀(やぎ まほろ)という存在は、自分を卑下する。 それはそれは理路整然と、『自分がいかに目立たなくて人に紛れてしまう存在で、つまらないくてとるに足りない存在なのか』を主張するのだ。 けれど、ちょっと待って欲しいと僕は言いたい。 ぐいぐいと主張してくる存在なんて、煩いだけだ。 僕は、真秀の大人しすぎず普通の範囲に収まる感じや、穏やかで控えめで優しい性格や、隣にいてホッとするところが、大好きなんだ。 「それは無駄な心配だな。お前がどこにいても、どんな格好をしていても、僕は見つけ出す自信があるよ」 だいたい。 手に入らなくてムキになっているだけなら、もうとっくに飽きている。 ホントに手に入れたいと思うからこそ、外堀を埋めて埋めて埋めまくって、本人の同意さえあれば入籍可能なとこまで周囲を説得してあるんだ。 僕、高浜 史時(たかはま ふみとき)は高浜家の三男で、長兄はすでに妻子持ち。 母は次兄を溺愛していて、僕のことは『かわいげがないから苦手』なのだという。 そして、真秀は八木家の四男。 確かに影は薄いけれど、八木家の癒し。 しかし、だからこそ色々とある家ではずっと家に飼殺しているわけにもいかず、本人が納得すれば僕に身柄を任せるという言質をとった。 「なんでそんな自信満々なんだよ」 「自信があるから。僕は、真秀を愛してるから」 にっこりと笑って見せると、真秀は困ったように視線を彷徨わせる。 自分に自信はないけど、僕のことは信用してくれているのだ。 真秀を追いかけるのは確かに楽しい。 けれどそろそろ、焦りも感じている。 僕らは、箱庭のような閉じた学校の高校三年生で、これから社会に出る準備をしなくちゃいけない。 僕は卒業までに真秀を囲い込んでしまいたいし、真秀は僕から離れて生活をする準備がしたい。 最近、僕からの愛のささやきは、言い合いのきっかけになってしまっている。 「そこまで言うんなら、オレを見つけてみせろよ」 「賭けってこと?」 「そう。もうすぐ学校祭じゃん。三日間の期間の二日目、身内招待日のお祭り騒ぎの、仮装ありの日。オレを見つけて、納得させてよ」 「いいよ」 「どんな仮装をするかは教えないし、一日中、いろんな格好をするよ。い、一回だけじゃないぞ。オレは何度か着替えるから、三回! 三回、オレのこと見つけたら、お前のいうこと信じてやる」 「見つけるだけなら、すぐに見つけられちゃうよ? ルールがないと勝負はつかないと思うんだよね」 真っ赤な顔がかわいい。 信じたいけど信じられなくて、揺れている真秀は、ホントにかわいい。 「じゃあ、開門時間から閉門時間まで。三番勝負」 「それだけ?」 「どっかに、景品かなんか置いといて、見つからずにそれをとってきたら勝ち」 「なるほど。誰かに審判を頼もうか。真秀が納得する相手でいいよ。誰に頼む?」 そして成立した、学校祭での賭け。 時間内に、職員室の黒板に、真秀が名前を書いたら真秀の勝ち。 仮装は三種類。 僕は、真秀が着替えるたびに探し直しをする。 見つけることができたら、僕の勝ち。 「いいだろう。その賭け、乗ってやろう。僕がお前を見つけたら、僕を受け入れてもらうよ?」

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