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第5話 締括(史時)

「洸大、後は任せた」 「任されるけど、明日は学校祭の最終日だからな。来いよ。絶対来いよ、休むなよ」 真秀は担ぎ上げた瞬間はジタバタとしていたけど、諦めたようにおとなしく担がれてる。 車の手配をしてやるから校門に行け、と、洸大が手で僕らを追いやるので、ありがたく指示に従うことにした。 さっき、真秀と話していた二人が気になるけど、内容は後で真秀に聞けばいいだろう。 「オーロラ姫を担いで歩くマレフィセントとか、絵面がすごすぎん?」 もごもごと真秀が訴える。 かわいい。 「お姫様抱っこの方がいい?」 「お前がすごい悪役チックで、面白そうだから、誰か画像とってないかなと思ってる……」 「ああ、動画か画像は僕も欲しい。あとで誰か持ってないか、聞いてみるね」 仮装そのままに、校門から車に乗って僕の家に行く。 家族への挨拶はすっ飛ばして、部屋に真秀を連れ込んだ。 「着替えたい?」 部屋には大人しく入ったものの、所在なさげに立ち尽くす真秀に聞いてみたら、こくんとうなずいた。 困ったときに見せる、幼い子どものようなしぐさ。 「じゃあ、先に風呂かな。着替えは僕のでもいい? 化粧の落とし方、わかる?」 「そんなのあるのか?」 「石鹸でごしごし洗っても落ちるとは思うけど……かえって時間がかかるんじゃないかな?」 「なんでそんなの知ってんだよ」 「今回仮装するって決まってから、勉強したもん。ほら、おいで真秀。一緒に済ませてしまおう」 着替えを出してから、部屋で仮装衣装を脱ぎ落す。 下着姿で廊下を歩いて、二階の風呂に真秀を案内した。 一緒に風呂に入るのは、初めてじゃない。 もっとも、一緒に入ったのは中学の最初の方で、まだ僕の気持ちを告げていなかったころの話だ。 何度かうちに泊まりに来たことはあるけど、その時はこっちの風呂は使わせてないから初めて足を踏み入れたんだろう。 きょろきょろと見回している間に、シャワーの温度を調整して、衣類を全部剥ぎ取る。 「はい、これで顔のマッサージして。洗い流したら、次は洗顔フォームね」 「ん」 真秀に教えながら、自分の化粧も落としていく。 服を着るだけだと思っていたのに、後輩たちに張り切って塗られたんだ。 お互いに黙々と化粧を落とし顔を洗い、髪を洗って身体を流す。 今までもそうしていたように、作業を進めていきながら、さてどうしたものかと考える。 僕としてはこのまま進めたいところだけれど、明日は休むなと洸大に釘を刺されてしまった。 さっぱりしたところで、手を引いて湯船につかる。 僕の足の間に、真秀。 同じ方向を向いて抱え込むような形。 ここにきて、やっと真秀は自分の現状に思い至ったらしい。 「史時……なんかこれ、へんじゃない?」 「どうして?」 「だって……なんか……こ、恋人、みたいじゃん」 「みたいじゃなくて、真秀は僕の愛する人でしょう? おかしいことなんか、何もないよ」 ちゅ、とつむじにキスを落とすと、びくりと身体が揺れた。 「いや?」 「…や、じゃない、けど……」 「賭けは僕の勝ちだよね。だから、そろそろ信じて……自分の気持ちを、認めなよ」 「うう……だって……」 「僕はどんな真秀でも見つけ出すし、愛せるよ。真秀だって、自信がないだけで、僕のことは好きでしょう?」 違う? と耳元に囁いたら、ぎゅうっと膝を抱えてしまった。 「……す。き、……き、嫌いじゃ、ない……」 「それだけ?」 「……だいぶ、好き……」 小さい声でそう言った後、ぷくぷくと湯舟に息を吹き込んでるから、もう、かわいくてかわいくて引き寄せて抱きしめた。 僕の素肌にふれる、真秀の素肌。 ひゃ、と真秀が慌てて逃げようとする。 「なに?」 「史時…あたってる……」 「そりゃあ、そうでしょ」 「する、のか?」 真秀が動き回るから、湯がパシャパシャと音たてて波立つ。 ああ、もうかわいい。 ほんとにかわいい。 「受け入れて、って言ったからには受け入れてほしいけど……」 けど、なんだよね。 多分、し始めたら止まれなくなると思うんだ。 そしたら、明日は学校に行けなくなる。 それはまずい。 しかし考えようによっては、明日があると思うから、そこそこのところで歯止めがきくともいえる。 じゃないと、真秀を抱きつぶす。 絶対。 「真秀はどうしたい?」 「オレ?」 「僕は真秀が大事だから。僕の気持ちを信じてもらえて、好きって言ってもらえたから、今日は我慢できるよ……真秀は、どうしたい?」 静かになった真秀は、僕の腕の中でしばらく考えた後、顔だけ僕の方に向けて、言った。 「オレ、ちゃんと史時としたい。バタバタとじゃなくて、ちゃんと。だから、今度ゆっくりがいい」 赤い頬で真面目な顔でそういうから、唇を啄んだ。 「ふ、ふみ」 「うん、じゃあそうしよう。僕らにはたくさん時間があるものね。でも、今日は泊っていってね。一緒に寝てね」 「うん……」 かわいい、真秀。 大好きだよ。 「最高の初夜を準備するから、楽しみにしててね」 「いや、フツーでいいです」 「その時は張り切って抱きつぶすかもしれないけど、怒らないでね」 「だ……いや、フツーにお願いします」 「真秀……真秀、愛しているよ」 ずっと一緒にいてね。 腰を押し付けながら、抱きしめる。 「の、のぼせるから、もう上がる!」 アワアワと逃げていく真秀がかわいくて、くすくす笑いがとまらない。 真秀を追いかけて立ち上がったら、風呂場のドアが小さく開いた。 「……オ、オレも、ちゃんと、史時のこと、好き」 ぴゃっと言い逃げする姿がかわいくて。 誰が何と言おうと絶対に、最高の初夜を用意して、高校卒業を待って入籍してやろうと、僕は心を決めた。 真秀の気持ちがぼくにあれば、僕はなんでもできるんだ。 <END>

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