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第4話 三番勝負(真秀)
もう後がない。
「つーか、三番勝負で既に二敗してんだから、もう勝負ついてんじゃね?」
洸大がそういうけど、でも、今回のルールは違うもんね。
バレた回数じゃなくて、一回でもオレが見つからなかったら、オレの勝ちだもん。
「さっきまでは洸大が近くにいたから、バレたのかもしれない!」
「そんなわけあるか」
「オレ一人で、いつもと全然違う格好だと、気がつかないかも!」
「いやあ、無駄なあがきだと思うよ?」
禿げ頭のカトチャン、カオナシ、と負けたけど、今回は女装だ!
オーロラ姫だ!
オレの好みで、ブルードレスの方。
手伝いを頼んだ姉ちゃんが、すっごいうれしそうだったのは、気のせいにする。
胸も詰めて、ヅラもかぶって、化粧もした。
「ドレスで動きやすくするこつは、実は長さとパニエなのよ」
って、ふんわりドレスも着せつけてくれた。
スカート部分がふんわりしてて、足先が見えるか見えないかの絶妙の長さだから、かさばる割には足さばきがイイ。
さっきの史時は迫力美人だったけど、姉ちゃん渾身の作品で、オレの化けっぷりだって大したもんだと思うんだ。
金髪女子だもんね。絶対ばれない!
洸大を遠くに追いやって、オレは校内を歩く。
目指すは職員室。
下手にルート設定は考えないで、とにかく、職員室だ!
ほら、さっきまでより全然快適じゃん。
って、せっせと歩いてたら、さっそく声かけられちゃった。
まあ、史時じゃないからいいけど。
「お嬢さん、おひとりですか?」
「なにかお探しモノですか?」
スーツに白手袋で、マントにシルクハットっていう格好の白黒コンビが、オレについて歩く。
白の方はモノクルしてて、黒の方はアイマスク。
あ、わかった。
「怪盗キッドとタキシード仮面だ」
「ぴんぽーん」
「正解です」
っていうか、それだけじゃなくて、なんかこういうのいたよね。
女性真ん中にして……
「ブルゾン智恵美!」
「え、俺たち、WithB?」
「もう少しなんか例えあるでしょ!」
あ。
このツッコミでわかった。
「寺島と酒井」
「今、気がついたとか、遅ぇわ!」
「え、オレも今、これが八木って気がついた」
「お前もか!」
ツッコミ入れてくる怪盗キッドが寺島で、一緒にボケてるタキシード仮面が酒井。
なんだよ、皆、仮装しすぎててわかってないんじゃん!
「オレ、さっきのジャスミンが八木だと思ってた」
「なにそれ」
「いたんだよ、同じくらいの背格好で、ちょろちょろしてるどんくさいのが」
む。
どんくさいだけ余計だ。
「さっきから、八木に間違えそうなやつ、いっぱいいるんだよ」
寺島が、いやもうしょうがないよね~って乾いた笑いを浮かべる。
史時のことが好きで、オレから引き離したいやつが、オレのふりしてダミーでうろついてるんだよね。
うん、わかる。
「だって、たとえ会長だってほいほいと八木をかっさらわれたら、腹立つもんな」
うんうん、と、酒井がうなずくから首を傾げた。
何言ってるんだ、こいつ。
そんなこと言ったら、誰かがオレのこと好きみたいじゃん。
「だよな」
「わかるわかる」
「だから、足止めしちゃうよな」
ん?
「足止め?」
「ルールは時間内に職員室だろ? 名前書くミッションに失敗したら、お前、会長とくっつくんだろ?」
「え、お前そういうつもりだったの?」
「お前違うのかよ」
「いやいや、オレは八木の味方よ? ほら、これは引き止めとくから、名前書きに行きなよ」
「ミッションは失敗して欲しいんだってば」
「何言ってんだよ」
白黒コンビが言い合いを始めて、オレは驚いた。
何?
敵も味方もいっぱいって、洸大が言ってたけど、こういうこと?
でもどうして?
史時のことを好きな人がたくさんいて、史時に反感を持っている人がいる。
それはわかる。
なのに、オレ?
ああ、そうか。
友情的な好意ってこと?
「何かわいい格好で、他の男とじゃれてるの」
ばさ!
低い声が耳元でして、黒い布でくるまれた。
史時。
さっきのマレフィセントの格好のままの史時が、マントを外してオレを捕獲した。
「かっかいちょ……」
「色々と聞きたいことはあるんだけど、とりあえず」
軽々とオレを担ぎ上げて、史時が言った。
「真秀は、僕のだから、手出し無用だよ」
「はいっ」
「……ああ」
ねえ、朝のカトチャンの絵面もまずかったけど、これもすごくない?
オーロラ姫を担ぎ上げて歩く、マレフィセントだよ……
三番勝負、これにて終了。
オレの、完敗です。
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