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第3話 二番勝負(史時)
「なあ、何でこのセレクト?」
渡された衣装を見て、僕はため息をつく。
走れないのは困るよね。
真秀を見つけることには自信があるけど、職員室に駆け付けるのは、タイミングだから。
あと。
真秀がどんな仮装をするのかわからないから、あまりにかわいいようなら、隠さないといけない。
真秀を隠すのにこのマントはちょうどいいかも。
取り外し方は、確認しておこう。
そういえば、さっきのカトチャンも、かわいかった。
いつもの真秀ももちろんかわいいけど、きっと、あんなふうにかわいいお爺さんになるんだろう。
髪はあってもなくても、どっちもかわいいってことがわかった。
「『悪い子いねぇか?』ってことらしいよ」
真秀のかわいいところを反芻していたら、さっきの質問に答えがかえってきた。
『悪い子いねぇか』ねえ。
だったら、素直になまはげの衣装でいいじゃないか。
何故に、いろんな話の悪役の衣装ばかり、ここにあるんだ。
誰のセンスだ。
ゴリラ体型の会計が、体のラインもあらわなぴったりドレスの上に毛皮のコートを羽織る。
101匹の仔犬を捕獲するの……かな?
「暑ぃ……」
「見てる方が、暑苦しいわ」
ぼやく会計に返す風紀委員長も、悪役の格好。
確かこれは、ロットバルト……『白鳥の湖』の悪魔。
「なんで俺がドレスなのに、お前は全身タイツよ?」
「自前だから」
「はあ?」
「家にあったのを持ってきたからだよ」
そういや、風紀委員長の家は、バレエ教室を経営していたんだったか。
「なあ、洸大は?」
「賭けの審判だから、免除です」
手伝いの一年生がうっとりとした表情で僕を見る。
どこに、そんな表情をする要素があるんだろうね?
「史時のは何?」
「マレフィセント……?」
「はい、そうです! さすが会長です、よくお似合いです!」
ああそうですか。
ありがとうと返して、運営委員で見回りに出る。
大名行列かって感じで、悪役の仮装した一行がぞろぞろ。
それを追いかけて黄色い声が上がるのは、ホントに解せないよね。
白雪姫の魔女は、おばあさんスタイルで籠を抱えている。
中にはリンゴ飴。
ホントのリンゴじゃないのは、転がらないようにという配慮らしい。
あちこちから声がかかる。
それを面白がって見物している人も、あちこちに見える。
教室の窓や、渡り廊下や、中庭の向こう。
渡り廊下の上に、カオナシがいた。
「ごめん、ちょっと別行動する」
「おー」
声をかけて、リンゴ飴を一本もらって列を離れた。
「なあ、そろそろ腹減らね?」
「貪欲だから?」
「貪欲なのはキャラであって、オレじゃない」
「そうな。お前は貪欲っていうより、わがままな」
渡り廊下にたどり着いたら、声がした。
さすが、洸大はわかってる。
真秀は貪欲じゃない。
むしろ欲があるのかと疑ってしまうくらいに、控えめだ。
あれもこれもと欲しがらない代わりに、ホントに欲しいものは譲らない。
真秀はわがままだ。
裾を踏まないようにしながら、ゆらゆら歩く姿が、かわいいけど危なっかしい。
早くこの仮装をやめさせたくて、目の前に、リンゴ飴を差し出した。
てっかてかのリンゴ飴。
「あ?」
「かわいいカオナシさん、よそ見してると、危ないよ」
「ああ?」
驚いたからか、真秀から出てくる台詞が『あ』ばっかりで、さすがカオナシっておかしくなる。
「仮装したままじゃ、食べられないか……洸大、これ持ってやって」
「はいはい」
「控え室の方に、いくつかテイクアウト届けさせるから、戻って食べなよ」
そういって頭を撫でたら、凍っていたのが溶けるように、真秀が驚きの声をあげた。
「はああああ?! 史時? っていうか、もう見つかったの? まだ渡り廊下に来たとこじゃん!」
「こっちも丁度見回りに出たとこだったんだよ。愛の力は偉大だね」
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