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第4話
すでに来春から入社が決まっているとはいえ、優月の肩書は今のところまだ学生だ。
週に三日程会社で働いているのはインターンとして学校に認められており、残りの二~三日は学校へと通っている。
二重生活は大変だけれども、今は会社からの逃げ場というか息抜きの場所があって良かったと少しホッとしている。
「はぁ……学校バンサイ……」
授業のベルが鳴る前、空いている席で机を抱えるようにして突っ伏していると、上の方から声がかかった。
「どうした小川、ずいぶん疲れてるなー仕事でポカして会社の人に怒られたか?」
顔をあげると、数少ない友人のひとりである須藤がひとつ席をあけて同じ並びの机へと座る。
「……おはよ。須藤も疲れてる顔してるけど、大丈夫?」
「あー、俺はほら、いつものだから。昨日新しいダンジョンが開いてさ、それで夜通し」
明るく社交性のある須藤とネガティブな優月、全く接点の無いように見えるのだが、実は優月に輪をかけてゲームオタクで、学校以外はすべてネトゲに捧げている。そのせいで彼女が出来ても『思っていたのと違う』とすぐ振られてしまうという残念なイケメンなのだ。
「よく学校来たね」
「そろそろ単位がヤバそうだから……泣く泣く」
明るく社交性のある須藤とネガティブな優月、全く接点の無いように見えるのだが、実は優月に輪をかけてゲームオタクで、優月が舞台まで行くようになった例のゲームを教えてくれたのも須藤だった。
学校以外の時間はすべてネトゲに捧げていると言っても過言ではないゲームジャンキーで、そのせいで彼女が出来ても『思っていたのと違う』とすぐ振られてしまうという残念なイケメンなのだ。
名取といい、優月の周りには残念なイケメンが集まりやすいのかと須藤の顔をじっと眺めていると不安そうに首を傾げられる。
「なあ、俺の顔……そんなにヤバい?」
「ごめん、ちょっと違う事考えてただけ。須藤の顔はそんなにヤバくはないから安心して」
「そっか、良かった。俺、この後内定先に顔見せに行かなくちゃいけないからさ、もし寝不足全開の顔だったらどうしようって思ってしまった」
「あ、この間行ってた税理士事務所? 内定おめでと」
「サンキュ。これでやーっと肩の荷が下りたからな、思う存分ネトゲに没頭できる」
これから社会人になるのにそれはどうかとは思うのだが、要領の良い須藤のことだから、仕事も趣味も両立していくのだろう。
その生き方が少し羨ましいとは思うものの、優月は自分の度量がどんなものかは分かっているし、須藤になりたいという憧れや嫉妬がある訳ではない。
「……で? 小川はどんな原因でそんな顔してんの?」
「え?」
「俺みたいにゲームで寝不足って理由じゃないんだろ? 内定先のインターン、上手くいってるって話だったけど、何かあった?」
話をそらしたつもりだったのだが、元に戻されてしまった。
「……実は、僕と同じ趣味の人がいてさ……」
「それってどっち? ゲーム? 舞台?」
「どっちも……しかも男」
「おお、それは貴重だ」
「それで……」
優月が本題に入ろうとした瞬間、教室のドアが開いて講師が入って来てしまった。
「なんか込み入った話っぽいし、放課後どっか寄って話そうぜ」
こそっと言われた須藤の提案に、優月は頷いた。
――そして放課後。
数字や難しい言葉が詰め込まれた頭は、振ったらバラバラと出てきてしまいそうだと思いながら席を立つ。
「小川、どこ行くー? ファミレス?」
「長居出来そうなとこ探そうか。えーと、この辺りだと……」
検索しようとスマホを出し、ディスプレイに名取からメッセージが入っていることに気付く。
何か仕事の連絡だろうかと開くと、駅名と時間が書かれていた。
用件が書かれていないのが余計に怖い。
しかも指定された時間は今から移動するにしても結構ギリギリで、遅れたりしたら名取にお説教されるのは間違いないだろう。
「ごめん須藤、急用出来たからやっぱ明日にして!」
「え? 明日って、学校ないぞー……って、聞こえてないか」
走って行く優月の後ろ姿を見ながら、何だか大変そうだけど頑張れ! と、心の中でエールを送る須藤だった。
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