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片梨【攻め】
俺のΩ が番 になってくれない。きっと俺がβなせいだ。
仕方がないので無理やりにでも子作りを開始する。
俺たちの運命 を目に見える形で手に入れないといけない。
地下室の監禁というのはベタ中のベタで、正直ありえない。
家の中に自分の番を残しておくなんて、狂気の沙汰だ。
自分だけの番なのだから、どこに行くに持ち歩くのが普通だろう。
小柄ではない彼の手足にサヨナラを告げて、持ち運びやすいように加工した。
鞄に入れようかと思ったけれど、かわいそうだったので柔らかなものに包まれる形で落ち着いた。
彼は意外とカワイイものが好きなので、自分の外側を喜んでくれた。
「おまえさぁ、そのぬいぐるみトイレにまで持っていくわけ?」
何度か飲み会の席で顔を合わせた誰かに聞かれてうなずく。
彼を抱き上げていることで、俺の動作は見えないかもしれない。
手を洗いながら俺というより、彼を見る。
男の視線から彼を隠すように動くと「とりあげたりしねえよ」と苦笑された。
どうやら俺が彼と一緒に居るのが羨ましいらしい。
「おまえに言っても仕方ねえんだけど……朝生 と連絡とれなくなっててさ」
勝手に俺の番 である彼の名前を口に出す不届き者。死ねばいいと思っていたら、俺の腕の中で彼が動く。
外の音は聞こえないように耳に綿を入れていたけれど、取れてしまったのかもしれない。
「αは海外旅行を制限されてるだろ? 大学の卒業旅行の日程とか場所の詳細を話したいんだよな」
「無理じゃないかな」
「あ?」
「朝生くんって、学校やめたって聞いたよ」
「おまえ、朝生と仲良かったのか?」
「父親が借金を残して蒸発したって」
俺の言葉に男は息を飲んだ。俺は彼を抱き直して、あやすようにゆする。
「母親と妹は無理心中だって、かわいそうだよね」
「……Ωの女ふたりが残されたら悲惨だもんな。でも、朝生の将来性なら、αなら」
「αもピンキリだしね。今はβ寄りのαが増えてるとか聞くし」
俺の言葉に男は納得したようだった。
ふと思いついたようにトイレの奥を指さした。
「ここの奥、ベビーベッドつきだぞ。そのデカいうさぎのぬいぐるみ、下に置くわけにいかないだろ」
「うん、もちろん。俺の大切な番 だから、綺麗で安全な場所にだけ置くつもりだよ」
元々、ここの奥のトイレだけ広めに作られていることを知っている。
大学内にある子供のオムツが替えられるトイレは頭の中に入れている。
朝ごはんをいっぱい食べさせてあげたから、お腹が苦しくて仕方がないだろう。
最初は下からではなく上から出してしまっていたけれど、今はちゃんと俺に持ち運ばれることに慣れてくれた。
俺を番として認めてくれたのかもしれない。少なくとも一歩前進だ。
「引き留めて悪かったな。……それにしても、なんでそんなに朝生のこと詳しかったんだ?」
「朝生くんの会社が潰れた原因が、僕の父だからね」
「は」
「僕の父はαが大っ嫌いなんだよ。憎んでいると言っていい。朝生くんの父親の会社はαの積極雇用で急成長しただろう。CMなんかの広告にβを一切使わないで有名になって」
「朝生のとこの会社……不買運動が、どうとか、……でも、SNSで盛り上がってたのなんて一部じゃねえのか?」
α至上主義を打ち出してαの優秀さをアピールするのは、間違ってはいなかったかもしれない。
βのほうが数が多いのに馬鹿だなあと思うけれど、彼の父親自体がβだから仕方がない。
息子がαだったことで、浮かれてしまったのだ。
優秀な息子の言いなりになっていれば、会社を潰すことなんてなかったのに自分で考えた結果は悲惨。
「朝生くんもかわいそうだよね」
「おまえの立場でそれを言うの、寒いわ」
完全に引いた顔をする男はそれ以上、言葉はないのか去って行った。
それを見送って俺もトイレの個室に入る。
俺の愛は分かりにくいらしい。
父にも番を見せたら「息子のオナホのために労力を割いたわけじゃない」と失礼なことを言われた。
彼はオナホじゃない。
毎日、いくらでも俺の精を受け入れるかもしれないけれど、愛のある行為だ。
「はい、脱ぎ脱ぎしましょうねぇ~」
思わず小さい子供を相手にする口調になってしまう。ベビーベッドに彼を寝かせているせいだ。
同い年の俺に子供あつかいされて恥ずかしいのか視線をそらされた。
耳に詰めた綿はズレている。中に入れ過ぎると取るのが大変なので、浅めに入れてしまったかもしれない。
「今日は一日、外の音を聞こうか? さっきの男がきみのことを言い触らしてるだろうから、朝生くんの噂を聞いて回るのも楽しいかもしれないね」
彼はボールギャグをしながら何か言いたげに息を吐き出す。
言葉にも音にもならない吐息がかわいいので頭を撫でてあげる。
「ぬいぐるみの中は快適かと思ったけれど、かぶれちゃってるね? 暑いのかな? 裸なのが悪いのかな。肌着で汗を吸収するから不快感は減るって聞いたことがある」
俺は急いで自分の服を脱ぐ。
彼を抱き上げ続けていたので俺も俺で汗をかいて湿っているが、何もないよりマシだろう。
「あれ? おしっこしかしてないね? 俺が見てる前で出したかった? 汗をかいてるのは我慢してたから? 言ってくれたらよかったのに」
しゃべられないようにしている彼に向かってブラックなジョークだったが、怒らず、俺に汗を拭かれるままにされる。
彼が俺に心を許している。
オムツよりもトイレの便器を使いたがる彼の気持ちを尊重してあげることにした。
和式だと彼が何をどうやって出していくのか、よくよく見えるかもしれない。
今のような洋式で支えてあげるのも楽しい。
自分が水洗トイレに流されていくとでも思っているのか、怯えたように俺にすがりつきながら用を足す。
彼はどう考えても俺を愛している。
昔、彼は排便などしないと信じていたけれど、手足を切れば血を流すし、切った手足は再生しない。
優秀な人間だから、俺たちβとは違うなんてことを思っていたのはバカだった。今では昔の話だ。
俺はちゃんと彼を理解できている。
「Ω が番 として俺の歯形を永遠にうなじに残して欲しいんだけど、僕がβだから難しいね。ごめんね。代わりにαを雇おうかな。僕がお金で雇ったなら、それは俺自身だよね。僕のお金で動く人間は俺そのものだ」
俺の言い分に泣きながら彼は首を横に振る。
どうしてだろう。
嫌がっているように見える。
外でボールギャグを外すのは父との約束で出来ないので、彼の気持ちは動作で読み取るしかない。
その動作だって、手足がないのでほぼ分からない。
「もしかして、僕以外とセックスしたくないってこと?」
期待せずに口にした言葉がまさかの大正解。
彼は何度も首を縦に動かしてくれた。
かわいくて愛おしくて、心が温かくなる。
βもα気分を味わえるというトゲつきコンドームを装着して、彼のメス穴を犯してあげた。
彼は中出しが好きなのか、コンドームを嫌がる顔をするけれど大学の中だから節度を持たなければいけない。
家に帰ってからいっぱい子づくりをしようと約束をした。
「俺はいつまでも、きみのことを愛しているよ」
なかなか番になってくれないけれど、これはこれで試練だ。
乗り越えるために二人で頑張らないといけない。
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