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Is that all ?
利樹が泣いている。
弟によく似た、華奢な肩を揺らして。
利樹が、泣いている。
父親に愛してもらえなかった彼は、弟をずっと憎んでいた。
勇樹が父親に性的虐待を受けているのは知っていたが、救いの手は伸ばさなかった。
肉欲でも、父に関心を向けてもらえている勇樹が羨ましかったからだ。
けれどまさか、性器まで切断されるとは思っていなかった。
そうなると知っていたら、もっと早くに助けていた。償っても償いきれない。
だから利樹は……父親が、階段から転落したとき。
勇樹が突き落としたのだとわかった上で、父が弱るまでそのままずっと、待っていたのだった。
手を下したのは勇樹だが、殺したのは利樹だ。
もう助からない、そのギリギリを待ち、ようやく救急車を呼んだ。
弟を助けなかった、罪。
父親を殺した、罪。
十字架を背負う細い背中は、憐れで、可愛そうで……斎木は骨ばったそれを、ゆっくりと撫でた。
利樹が顔を上げ、泣き笑いの表情を浮かべた。
「おまえのおかげで、勇樹と話せた……。ありがとうな」
ピアスをたくさん開けた、その耳朶をピンクに染めて。利樹がそう礼を言う。
「だが、おまえの罪がゆるされたわけじゃない」
「わかってる……ゆるされるとも、思ってない。一生かけて、勇樹に償う。勇樹の面倒は、俺が見る」
「そんなおまえたちを、俺が支えよう」
斎木は目を細め、じわりと笑った。
斎木を必要とし、斎木が居なければ生きていけないような人間を、斎木は愛する。
最も可愛そうな人間を、愛するのだ。
利樹が苦し気に顔を歪めた。
いま、利樹を抱きしめているのは、弟とも寝ている男で……。けれど、誰にも頼らずに罪を背負い続けてきた利樹が、初めてその重荷を預けることができた男だった。
もうこの腕なしでは歩けない。
利樹は逞しい男の首に抱きつき、そっと唇を寄せた。
斎木の厚めのそれが、しっとりと合わさってくる。
これでまた、利樹の罪が増えた。
弟が大事に思う相手を。
利樹もまた、愛している。
男のごつりとした指の腹が、耳のピアスをくすぐってくる。
吐息を交わすような、密やかな口づけをほどいて。
斎木がそっと、囁いた。
「おまえが一番、可愛そうだな」
これでおしまい …………?
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