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第20話

しゅるり、と腰紐を解くと肩から浴衣を落とす。 外気に触れた肌はたちまち粟立ち、升麻は一度ブルリと体を震わせた。 急いで着替えようとシャツを手にしたその時だった。 カタッ…という小さな物音を耳が拾う。 何気なく振り返った升麻は思わず目を見開いた。 そこに舛花がいたからだ。 「なんで…ここに…」 升麻の手からするりとシャツが落ちた。 日差しを遮断した薄暗い部屋の入り口に立つ舛花は妙に静かで、こちらをじっと見つめている。 どうして気づかなかったんだ… 体格もリーチも升麻の倍はある舛花。 その存在に全く気づかなかったことに驚き言葉を失っていると、舛花がおずおずと口を開いた。 「いや…まぁ…なんつーか…その…寝てるかも、と思って…さ」 歯切れは悪いが、いつもの横柄なものの言い方ではない。 「…っつーか、まだいた事にびっくりしたっていうか…」 升麻はハッとした。 その目がしっかりと胸元に注がれていたからだ。 見られた!! 升麻は慌てて浴衣を引き寄せると身体を隠した。 しかしそんなことをしてももう遅い。 胸の傷は間違いなく見られてしまっている。 おしまいだ… 升麻の頭の中にという言葉が浮かんだ。 きっと舛花は気づいただろう。 升麻が頑なに着物を着ない理由が、数日前突然倒れた理由が。 饒舌な舛花のことだ。 他の男娼に言いふらし、それはたちまち楼主の耳に入る。 そうすれば升麻はここを追い出される。 楼主には病のことを知られてはいけないと釘を刺されていた。 ただでさえ舛花の前で倒れてしまい危うい状況であったのに、自ら決定的な証拠を晒してしまったのだ。 舛花も楼主も、升麻が淫花廓にいることを快く思っていない。 つまり、もうどんな言い逃れも通用しないということだ。 戻るのか…あの場所に… 升麻の頭の中にあの居心地の悪い場所がよみがえる。 ただ先代の遺言というだけで押し付けられた社長という座。 早く逝ってくれと升麻の死を望みながらも、表面上は優しく接してくる伯父や母親。 あの場所に升麻の居場所なんて存在していない。 どこにもないのだ。 升麻の肩がガタガタと震えだす。 それに気づいた舛花が慌てて駆け寄ってきた。 「おい…大丈夫か?まだ具合い悪いんだろ?寝てろよ」 浴衣越しに肩を掴むと、ベッドへと誘導しようとしてくる。 だが升麻はその手を振りほどくと、舛花の胸ぐらを掴んだ。 「どうすれば…っどうすれば黙っていてくれますか?!」

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