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第1話 毒親の支配
すっかり慣れきってしまった律動。
肉が肉を打つ水気を帯びた破裂音でさえ、日向(ヒナタ)の耳にはカーステレオから流れるラジオのように日常的なBGMとなっていた。
「日向……っ、俺が、俺もっとしっかりしていたら……」
「にいちゃんのせいじゃないよ。にいちゃんは悪くない」
「そうだ、俺は悪くない……悪いのはアイツらだ。アイツらから日向を守らなければ……」
くだらない言葉の応酬。
日向を犯している実の兄・月翔(ツキト)は、普段は快活な好青年を演じているが、日向とふたりきりになると途端に悲観的になり、また過剰なほどの加護欲を日向に向けるのだ。
「日向……お前を傷つける全ての奴らから、俺が守る。日向を泣かせる奴は許せない。そうだろう、日向?」
後頭部を鷲掴みにされ、無理やり顔を持ち上げられる。後ろから攻め立てていた兄と目が合う。反射的に日向は笑った。
「そうだね、にいちゃん……」
日向はとびきりの笑顔を返した。兄に嫌われたくない一心で。
それから今の月飛が喜ぶであろうセリフを言う。言いたくないけれども、言ってしまえば今夜の遊びは終わりになるだろう。
「にいちゃんのお汁で、もっと、日向をぐちゃぐちゃにしてください……っ」
「……どこで覚えたんだ。そんな卑猥な文句。エロ動画の見過ぎか? まったく。馬鹿な同級生にそそのかされたのか? お前は無垢でいればいいんだよ」
何度も何度も顔面を枕に押し付けられる。息が吸えず、日向は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら謝った。
「にいちゃん、ごめんなさい。にいちゃん、ごめんなさい」
「日向を愛しているのは誰だ? 俺だけだろう。日向を傷つける全てから守ってあげられるのは、俺だけだろう?」
「にいちゃん、ごめんなさい……」
「何に対して謝っているんだ?」
「僕がにいちゃんを困らせるから……っ」
「悪いのは誰だ?」
「僕です……」
「違うだろ」
「ひぎゃっ」
ひときわ大きく最奥を突かれ、日向は喉を詰まらせた。
「あの毒親どもが悪いんだ」
繰り返し吹きこまれた呪詛の言葉。
「日向……。俺は心に誓ったんだ。あの毒親どもから日向を守るって」
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