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澤野千疾の章 第3話

 引っ越しは翌週の土日に終わった。独り者なんてそう荷物なんかない。それよりも蒼羽が住んでいるマンションは高級マンションで今度は俺の顔が引きつった。  そもそもあの日からずっと俺はこの部屋に転がり込んだ。蒼羽は俺を片時も離さなかったのだ。  会社に行くときだって彼の車で送ってもらう毎日だ。どこのセレブになったのかっていう状況だ。  蒼羽はαだ。エリートなのだ。俺が聞いた話では有名国立大学を出て、財務省のエリートコースらしい。婚約者もいそうな話じゃないのか。そもそも普段は遅いし、休日だってあってないようなものだった。それでもベッドに潜り込んで俺に抱き着いて寝るのだけはいくら遅く帰ってきても変わらなかった。  セックスはやっぱり最後までできるわけがなくて、でもあきらめたくないのか、後孔を弄るのはやめなかった。彼の指でイかされるのも毎回だった。  俺のどこがいいのかわからないまま、出会ってから一年を迎えようとした頃だった。 「あなたが千疾、ね?驚いたわ。そっくりなんだもの。」 一目でΩとわかる超絶美人が俺の目の前にいた。  彼女は蒼羽の婚約者だった。  俺に蒼羽と別れて欲しいと言いに来た。 「あなたは彼の番の身代わりなんだから、愛されてるわけじゃないのよ。所詮、βなんだから。」  撮った覚えのない写真。それもそうだ。俺じゃないんだから。  そこには幸せそうに笑う蒼羽とΩの彼の運命の番が仲良く写っている写真だった。その人物は俺と瓜二つだった。事故で、一年前に亡くなったそうだ。  そう、俺と出会った、その、1週間前に。  そう言えば法事があるからと、泊まりで実家に帰ると告げられたのはほんの2,3日前。彼のことだったのだろうか。  俺は彼女に頷くしかできなかった。彼女は満足そうに、札束の封筒を俺に握らせて帰っていった。  俺は電気もつけずに部屋の片隅にうずくまっていた。  俺のことを好きではなかった、身代わりだった。  βの俺に惚れたわけじゃなかった。  そうだ。αがβのことを好きになるわけがない。  馬鹿だ。 「…ふ…う…」  ひとしきり泣いて思った。出ていこう。もともと結ばれるわけないんだからそのつもりだっただろう?  それが早まっただけだ。  出ていくんだ。動けよ。この足。あいつが帰ってくるじゃないか。  少なくてもあいつは俺を大切にしてくれたから、迷惑掛けるわけにいかないじゃないか。 がちゃりと鍵の開く音がした。 「ただいま、…千疾?寝ているのか…」  蒼羽が帰ってきた。どうしよう。  逡巡していると電気がついた。 「千疾、どうしたんだ?そんなところで…」  蒼羽の声が止まった。床に落ちている、現金の入った封筒と渡された写真。それを見て、蒼羽が立ち止まった。 「お前の婚約者にもらった。そんなことしなくてもいつでも別れるのに…お前、結婚もうすぐなんだって?」  蒼羽が俺を見る。ああ、そんな驚いた顔しないでくれ。騙していたなら一生ついてくれよ。惚れたって言う嘘を。 「結婚はしない。千疾がいるんだから…」 そう、言ってくれた。でも… 「俺はΩじゃないし、お前の番じゃない。…番、とっくに見つかってたんじゃないか。俺、馬鹿だったよ。」 「千疾…」 「馬鹿だ。俺…出会って一年だからなんかお祝いしようって浮かれてた。でも、大切な人が死んだ日がそれと被るんだったら、祝えないじゃないか…俺のこと、好きだったわけじゃないんだろ?この顔が、好きだったんだろ?身代わり、だったわけ…『違う!』…」  ふいに抱きしめられた。 「違わないだろ…まあ、運命の番が俺と一緒の顔だって言うのはちょっとびっくりしたけど。別人なんだよ。俺と、その番は。こんなこと続けるのは、よくない。」  胸が痛い。 「違う。最初は確かにそっくりでびっくりして追いかけた。でも、表情が違うし、しゃべり方も、何もかも違った。言っておくけど、彼とはセックスしたことなかったよ。だって、出会ってすぐに発情期に入る前に事故で逝ってしまったから。」  彼に頬を両手で包まれて、正面から覗きこまれた。 「だけど…俺はβだよ?それも男なんだ。蒼羽は雲仙家の跡取りなんだろう?結婚はしなくちゃいけないんだから、俺とはもう、別れてもいいだろう?」 「そんなに泣いて俺と別れられるのかい?別れたくないから、泣いてるんだろ?」  優しく、涙を舐めとられた。  零れおちる滴はもう、俺の服に染みを作っていたけれど、今から流れるそれは、流れでるそばから、彼に舐めとられた。 「優しくするなよ。別れる決心したのに。」  彼から逃れようとしたのにびくともしない。 「逃げないっていうまでこのままだ。もう大切な人は失いたくない。本当に千疾が好きなんだ。愛してるんだ。信じて?」  じっと見つめる彼の瞳は真剣で、そして不安に揺れていた。 「俺だって、蒼羽が好きだよ。でも、俺はβだから…きっと蒼羽が嫌な目に会うよ?」  キスが降りてくる。顔中に。 「初めて言ってくれた。嬉しい、千疾…一緒にいてくれる?出て行かないよね?」  ぎゅっと抱きしめられた。そうだ。蒼羽はずっと俺に気持ちを言ってくれてたのに、俺からはそれに応えたことなかった。 「蒼羽が別れるって言うまでならいいよ?」  本当に蒼羽が必要としなくなるまででいい。俺はそれでいい。婚約者には悪いけど、蒼羽を悲しませたくない。 「そんなこと一生言わないから、それでいい。」  蒼羽は実家を出た(跡取を正式に辞退した)らしい。婚約も破棄したって言ってた。実家は相当な財閥らしいけど、国家公務員だから関係ないって笑い飛ばしてた。  でもキャリア組っていろいろ派閥があって大変なんじゃないかなと思うんだけど。  αの中で変わり者って陰で言われてるらしいのが悔しいところだ。  でも蒼羽は相当に優秀らしいから心配してない。 「…ん…蒼羽…」  蒼羽とのセックスは最後までできないけど、とろとろに蕩かされて訳がわからなくなってしまう。俺だけ、こんな気持ちよくっていいのかと思う。 「千疾、色っぽい…もっとその顔見せて…」  そして言葉責めが酷い。恥ずかしくて悶絶するようなこと、いっぱい言う。そうして蒼羽に気持ち良くされてる間にいつの間にか熱いものが宛がわれてた。 「な、に?あん…あっ…熱い…」  指より、太いものが入ってきて息がつまった。熱くて気持ちいい。揺さぶられて蕩けた内部が締め付けて咥えこむ。 「あ。気持ち、イイ…蒼羽ぁ…」  ちゅっと顎先にキスされた。胸にもキスが散らされて何もわからなくなる。俺はどうも胸が弱いらしいのだ。熱い先端に前立腺を擦られて身体が跳ねる。目の前が白くスパークして、達したのがわかった。でも、イってない。精を吐きださないままの絶頂。  何度もそれが繰り返されて途中で俺は気絶した。目が覚めても、俺は蒼羽の腕の中にいた。 「あ…蒼羽…」 「千疾、繋がってるよ?」  耳元で囁かれて俺は驚いた。  全部は飲み込めてないけど、確かに俺は蒼羽を受け入れていた。受け入れられていた。  それが嬉しい。  思わず後孔に力が入って締め付けてしまった。 「千疾の中ものすごく気持ちイイ…」  俺は真っ赤になるしかなかった。αは吐精が長いからイっても長く精が注がれる。その間も俺はイきっぱなしで途中で何度か気を失った。  翌朝、蒼羽は凄いイイ笑顔で、 「抜いた後、千疾の中から俺のが出てきてもう、エロいのエロくないのってエロくてもう一回突っ込んじゃった!」  とのたまってくれたので思わず頭を叩いてしまった。俺は悪くない。  ともかく、蒼羽を受け入れることができたのも辛抱強く蒼羽が俺のことを慣らしてくれた結果だった。  まあ、全部は無理だけどね。  出会って3年経った今も、俺達は仲良く一緒に暮らせてる。時々外野がうるさいけれども、俺達は幸せだ。

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