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翔の章 第2話(最終話)
「翔…翔!!」
ああ、蒼羽さん、そんなに心配しないで。あなたの運命の番は見つかるから。
「目を開けたぞ。よかった。」
ん?
「もう、蒼羽が無茶させるから!!翔、痛いところはない?」
あれ、俺の顔が俺を覗きこんでいる。
ん?俺?
「翔、大丈夫?」
ひょこっと俺の視界に入ってきた子供。
くりくりっとした大きい目に柔らかそうな髪。将来凄く可愛くなるだろう天使。
5歳くらい?
ドキン。
あ、俺の番だ。
わかる。
呆然としてたら撫でられた。
「翔、意識があるなら、はいって言って。一応病院に行こうね。」
ああ、そうだ。俺にそっくりなこの人は。
「はい、母さん…」
俺、兄さんの子供に生まれ変わっていた。
この衝撃事実。
しかも、俺、かなりやんちゃな子供だった。そして、αだ。
ちょっと待って。どういうこと?兄さんβだったよね?
混乱している俺の様子の様子が心配なのか、父さん(蒼羽さん)が俺をそっと抱きあげて病院に連れていくことになった。
「かけるぅ痛いの?」
何この可愛い生き物。
「大丈夫だよ、真也 。翔君は大事を取って病院行くだけだから。」
あ、この人、天使のお母さんで、母さん(兄さん)の友達で、叔父さんの伴侶のまことさんだ。
天使は次男で、αのお兄ちゃんが俺の3歳上にいた。天使と俺は同い年だ。
今俺は五歳だ。
思いだした。天使の家に遊びに来て、庭でブランコに乗って落ちたんだ。父さんが揺らしすぎたせいで。
そんな性格だったのか。しかも父さんは母さんにべた惚れで、俺が見ててもかまわず母さんにちょっかい出すからしょっちゅう怒られてて、俺は父さんがアホなんじゃないかと思ってた。
あー、あのかっこいい蒼羽さんを返して。
それにしても。俺の名前は翔だ。
前に何でこの名前なのって聞いたら、父さんと母さんを結び付けてくれた人の名前なんだって言ってた。
そんなことになっていたのか。
今度馴れ初めでも詳しく聞いてみよう。砂吐くかもしれないけど。
検査の結果、俺は何ともなかった。芝生がクッションになったらしい。俺はびっくりして動けなかったらしいのだ。
それが俺の前世を思い出すきっかけだったから人生何が起こるかわからない。
俺は雲仙翔であり龍泉寺翔でもある。
今生の翔が基盤にあり、記憶もすべてある。そこに前世の俺の記憶や考え方が混じっている感じだ。
だから自然に、父さん母さんと呼べるし、愛情も感じている。前世では出会えなかった番とも会えて俺は幸せだ。
まあ、天使は自覚ないんだけど。これから囲い込んで頑張って番になってもらおう。
性格は若干ワイルドになっている気がする。受け止める側のΩから支える側のαになったのが大きいのか。
立場の違いもある。父さんは後継ぎから退いた立場だけど、長男であることは変わらない。俺もαであるからには雲仙家の一角を担うことを期待されている。叔父さんの優輝さんの補佐にゆくゆくは天使の兄の優(まさる)が入り、後継ぎとして育てられるという噂だ。天使には雲仙家とパイプを持ちたい有象無象がたかってくることは目に見えている。
俺は天使を護ってお互いが学校を出た後に婚約できたらいいと思っている。それには叔父さんに天使にふさわしい男と認められなければいけない。今から頑張れば何とかなるかな。
元が理系頭だし、勉強は嫌いじゃないからなんとかなる。ただ身体を動かす方が問題だ。出来るαはスポーツも万能。身体も鍛えないと。
鏡を見たが、今の俺は、父さん似。父さんに鍛えてもらえばいいんだ。
よし。がんばるぞ。
「翔はガンバリ屋さんだね。でも子供は寝る方が仕事だからほどほどでいいんだよ?」
母さんに褒められて躾られる。そうか、俺今まだ子供だ。ある程度身体ができるまでは無理は禁物だな。
母さんは優しくて大好きだ。兄さんと一緒に育ってたらまた違った人生だったかな。もしかしたら父さんを取りあ…ないか。ない。どうも俺は父さんは好みじゃなかったっぽい。
毎年俺の(というか前世の)命日に両親は俺の墓参りに行くらしい。俺はその時はお爺ちゃんの家でお留守番していた。記憶を取り戻した俺は元の両親にあいたくなって一緒に行きたいとだだをこねた。
「いつもありがとうございます。」
元の母さんが頭を下げていた。俺の遺影と位牌。俺は不思議な気分でそれを見た。
「お子さんですか?」
問われて父さんが俺を紹介する。
「翔です。初めまして。」
俺の名前を聞いた途端、元の母さんは泣きだしてしまった。おろおろした俺の肩を父さんは掴んでくれて、少し落ち着いた。
「あの、たまに遊びに来てもいいですか?同じ名前だし、母さんにそっくりだから、他人とも思えなくて。」
皆がビックリしていたけど、許してくれた。親不孝の挽回を少しはしていきたい。俺の自己満足だけれど。
俺の今のビジュアルは父さんだけどその方がいいだろう。
墓参りは更に気分が微妙になった。本人はここにいるんだけど。
前世の翔は皆に愛されていた。
それは俺が生きていた時は当たり前すぎて気付かなかった。
ああ、両親も友達も、蒼羽さんも。
皆ありがとう。
俺はこれから、別の人生を生きるけれど、皆に胸を張って自慢できるような生き方がしたい。
父さんにはいずれ秘密を話して罪悪感や後悔の念なんか吹き飛ばしてもらいたい。
「翔!遊ぼう!」
にこにこと俺に飛び込んでくる、真也を受け止めて、俺は笑った。
「遊ぼう!今日は何する??」
「かくれんぼ!!」
天使を見つけるゲームはテーブルの下で丸くなって眠る天使を見つけて終了した。
その天使の寝顔を見て、俺は改めて生まれ変わってよかったと思ったのだった。
★おわり★
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