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第6-2話

食事が終わった後、飛翔と俺は同じ講義を受けるので弓弦と別れた。2人でゆっくり歩いていると弓弦の話になる。 「遊馬あんまり話したことなかったけど、良い奴だな。」 「……そうか?」 同意はしかねるので疑問形で返す。 「うん。αとしか一緒にいるところ見たことなかったから、性差別する奴かと思ってたけど、雪雄と仲良いし。俺の勘違いだったよ。」 「うーん…。」 性差別というか、人間をゴミ呼ばわりする奴だけどな。先程から良い返事が出来ない。 「それでさ、」 「ん?」 「さっきは遊馬いたから言えなかったど、雪雄はさ」 「うん。」 「遊馬の事好きだろ?」 「ん?………ん?」 何を言ってるんだ?遊馬が好き?1mmも感じたことないんだが。 「普通に、友達だぞ…?」 「恥ずかしがるなよ。だってかなり親密な雰囲気あったし、向こうも好意ありそうだったじゃん。」 毎日sexしてれば親密度は増すし、いまだに俺のことは飽きずに好き好き言ってくるので間違ってはない。でもそんな事は言えない。 「……いやいやー、勘違いだろー。」 「えー。だってさ、雪雄も最近香水変わったり、服も今着てるのブランド物だろ。元々全然ブランド興味なかったのに、この変わり様は遊馬の近くにいたいからだと思って。」 「いやいやいやーそれは違うぞー。それはな、えっとー……」 匂いは弓弦のシャンプーだし、服は弓弦のプレゼントだ。普段惚気しか言わないのに、意外と気づいてくれていた事に嬉しくなる一方、バレたら困るので背中に冷汗をかきはじめる。 「あっ!ほら、もう来年社会人になるからさ、大人の嗜みが必要だろ…?」 「……うーん?」 腕を組んでジト目で俺を見てくる。この言い訳を疑っているのか。でも俺は認めないからな。 「……あ。そうか。実はもう付き合ってるとか?」 「え」 驚きで心臓が跳ねる。 「お!やっぱり。ビンゴだったんだ。」 「ば、馬鹿!付き合ってないって!」 「え?付き合ってないの?」 「そうだよ!」 勢いよく否定する。一番バレたくない相手にバレるなんて嫌だ! 「そうか……?でも好き同士だと思うんだけどな。」 「いやいやいや。俺も好きじゃないし、弓弦もαだから、βの俺を好きになるはずないじゃん。」 「え、そんな事はないだろ。好きの気持ちに性差は関係ない。αとβで結婚している人も実際にいるんだし。」 「いやいや……。それってめっちゃ少ない話だろ?俺、実際に見たことないし。」 βがαやΩと結婚したとなれば、一般人でも地方ニュースに報道されるのだ。それぐらい数は少ないということになる。 「俺も見たことはないけど、雪雄はめっちゃ良い奴だし、遊馬も良さがわかってるんじゃないか?」 「いや、だから弓弦も俺も恋愛感情はないって。」 「そうなのか?」 「そうだよ!もし弓弦好きなら飛翔に相談してるし!」 「…………そっか。うん。そうだな。」 最後の一言で納得してくれたようだった。よかった。これ以上聞かれたらボロが出てくる。安心して、ホッとため息をついた後、いつの間にか立ち止まっていた足を動かして歩いていく。今日は曇りで白色の雲が薄くかかっているが、風がなく少し暑く感じた。 「なぁなぁ。」 飛翔が前を向きながら俺に話しかけてくる。 「何?」 「雪雄ってさ、結構バース性気にしてるよなー。」 「え。何だよ急に。」 「だってさっきも『αだから、βの俺を好きになるわけない』って言ってたじゃないか。」 弓弦の話は終わったんじゃないのか。もうほじり返さないで欲しい。 「それは一般的な考え方だし、別に俺だけの考えじゃないよ。」 β性の間では、αやΩと恋愛するのは純愛だと言われている。でもその純愛は、ドラマなどの仮想世界では美しく描かれているが、現実は離婚率が高かったり、浮気率が高かったり、Ωのフェロモンには敵わなかったり、と報われない事が多い。 「あー……そうなんだよなー。寂しいことに、その考えで接する人が多いもんな。……でも俺は、バース性で縛られるの好きじゃないんだよね。差別してるみたいでさ。」 「まあ……飛翔はそうだろうな。」 αなのに、バース性関係なく交友関係を持っている飛翔らしい言い方だった。 「障害は多いかもしれないけど、最初から諦める理由をバース性にするのは良くないよ。」 「だから弓弦の事は好きじゃないって。」 「いや、遊馬の事じゃなくて、これからの事だよ。」 「…………これからの事?」 現在進行形で飛翔を好きなのに、これからの事を考えるのか……? 「そうだよ。もしさ、この先β以外の性の人好きになったとき、諦めるなよ。だって諦めたら何も変わらないまま終わるじゃん。相手がどう反応するかは確かにわかんないけど、頑張ったら想いは伝わるかもしれない。実際に結ばれる人もいるんだし。」 「……………そうかな。」 こうやって飛翔が話しているのを聞いていると、俺は自分の気持ちを言ってもいいのだろうかと勘違いしそうになる。でも心の隅の方で、納得ができない部分がムクムクと膨れていくのがわかった。 『性差なんて関係ない』って、αとΩ、ましてや運命の番で結婚する飛翔が言っていい言葉ではないだろうか。運命の番なんて、魂だとか、性に一番縛られている存在なのに。 性差を気にしないって事は、春香さんがβでも好きになったって事になる。運命の番じゃなくても春香さんを好きになったってこと。それはそれで答えを聞くのは辛いけど、どういう考えで今の発言をしたのか答えが気になってしまい、聞かずにはいられなくなった。 「……飛翔は春香さんがβでもさ、好きになったって事?」 バース性で差別しないなら、飛翔は『うん』って答えるのだろう。それなら、俺は性差で諦めていた自分が間違っていたって事で納得して、今回の恋愛は俺の臆病な気持ちが原因だって考えを改める。 「え、それは違うよ?」 「え?」 「春香は運命の番だ。βとか、Ωとかじゃない、特別な存在なんだよ。魂が惹かれ合うんだ。まさに名前の通り、運命を感じる。唯一無二の存在だって。だから春香がβならって質問は、質問が間違ってるよ。俺が言ってるのは運命の番以外の恋愛だから。運命の番は恋愛なんて概念なく心が惹かれ合うんだ。半身を見つけたように。この人だけだと身体がわかってしまうんだから例外の話だよ。」 「…………はは、そうなんだ……?」 例外?恋愛に例外ってなんだよ?バース性に縛られるのが嫌なんて言ってたのに、運命の番は例外で納得してんの? 何だろう……。恋愛で一番差別してんのは飛翔だと思う俺はおかしいのか?運命の番は特別だっていうのは、α特有の考えなのか? 飛翔は当たり前のように春香さんしかいないって言ってるのに、俺には春香さんが運命の番じゃなかったら選ばないって言ってるようにしか聞こえない。 「だって運命の番って出会えただけで凄い確率だよ。本能で惹かれ合うんだから。あの感覚は忘れられない。目の前に何百人いても、絶対春香は見つけられる自信があるんだ。」 「……そっか。」 俺が納得していないのがわかったのか、運命の番について力説してくる。でも凄い事みたいに言ってるけど、俺から言わせてもらえば、ただの動物と同じにしか聞こえなくなってきた。 本能で魂が惹かれあって、発情とヒート起こしてsexしたくて堪らなくなって、優良な子孫を残す。それって気持ちなんてあってないようなものじゃないだろうか。 ああ。だからか。 だから恋愛の例外って事か。身体が惹かれ合うなら恋愛のクソもないもんな。 素晴らしさを話している飛翔を見ていたら、急に自分が馬鹿らしくなってきた。運命の番しか見えていないのに、俺は3年以上も報われないこの気持ちを持っていたのか。 今まで傷ついていた心が冷えて凍り、血も傷口と共に固まっていく感じがすると胸の痛みが引いていく。 長く一緒にいて何でも知っていると思っていたけど、俺はまだ知らないことがあった。飛翔の恋愛の価値観は俺とは違う。理解出来ない。 「でも俺たちみたいな運命の番なんて、出会う確率少ないんだし、性別関係なく好きな人出来たら、アタックしなよ。雪雄なら絶対幸せになれる。めっちゃいい奴なんだから。俺応援するからさ。」 「………はは、ありがと。」 飛翔の言葉が俺の心を上滑りする。 多分俺に好意の感情がなかったら、『それは違うだろ』とか『俺はこう思う』とか親友として恋愛について語って、価値観の違いを言い合って、友情を深められたかもしれない。そして、いつか好きな人が出来たって相談して、告白をしてその返事を泣くか笑うかしながら報告できたかもしれない。 冷えて固まり、痛みを感じなくなったはずの飛翔への心は、まだ大きく存在感を示している。こんな気持ちはもう有害でしかないのに。飛翔にとっても、俺にとっても必要なものじゃない。邪魔なだけなのに。 もうハンマーで粉々に粉砕してほしい。 弓弦なら壊してくれるかな。あの整った顔を浮かべたら、すぐにこの場から立ち去って、グチャグチャなsexをしたくなった。そしてカレーたらふく食べて寝たい。 「あ!やばい!後5分で授業始まる!走るぞ!」 飛翔が携帯画面を確認して焦った声を出してきた。授業を休んで弓弦の家に行こうと思ったが、お互いに3限目まで授業だったのを思い出し、仕方なく走って授業向かう。急いだおかげで何とか間に合い、息を整えながら教科書を出した。 俺はやる気なんて起きなくて、上の空で板書を眺めた。なかなか時間が過ぎてくれなくて、後ろの席だったので突っ伏して寝てみる。しかし眠気も来ず、形容し難い気持ちの中、ただ時間が過ぎるのを待った。

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