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第9-1話

その日の夜に矢澤から謝罪のメールが来ていた。弓弦の目を盗んで、メールで気にしなくていいことと、体調はどうか聞いてみる。ヒートは落ち着き体調も悪くないと返信が来たので安心した。 メールを送り終えてしばらくすると、いつも通り弓弦の誘いでsexが始まったが、珍しくアイマスクを俺に着けてと言ってきた。視界を奪われるということは何をされるかわからない。したくないと拒否したが、アイマスクが嫌なら他にも道具があるよとクローゼットから多種多様な大人の玩具が出てきたので、結局根負けし、真っ黒のアイマスクを身につけてsexが始まった。 「うわっ……あっ、ああっ、ん、んっ」 「動き予測出来ないから気持ちいいでしょ?……ほらっ」 「んあああっ!ち、くびと……んんっ、一緒はっ、ダメぇっ!」 アイマスクを付けると感覚が更に敏感になり俺はいつもより嬌声を上げた。奥を突かれる度に身体は反り、敏感に腫れぼったくなった赤い尖りを共に責められると、精液を出さずに何度も絶頂を迎える。奪われた視界は深い快感へと俺を(いざな)ってきた。 「はっ、あっあ、ゆ、弓弦っ!ま、またイク!も、もう……イクのキツい…んあ…っ!」 「雪雄可愛い……。メスイキは何回だってイケるから。いっぱい気持ちよくなって。」 「んあああっ!は、あ、あっ、あっ……、ああっ、ん、来る来るぅ……!」 そんな感じでsex中は訳もわからなくなっていた俺は、弓弦が内緒で携帯を操作し、あられもない声が矢澤に聞かれていたことは知らなかった。 怠い身体を起こしながら、翌朝に携帯を見てみると、『見損ないました』と一言だけ矢澤からメールが来ており、意味が分からず電話とメールをしてみたが拒否されてしまい繋がらなかった。着信履歴が消されていた俺は理由もわからず嫌われてしまったことに落ち込み、矢澤と会えないまま時間が過ぎていっていた。 そして2月。卒論も無事提出し、春休みが刻々と近づいてきた。大学生活もあと数ヶ月で終わると思うと、寂しさを感じるようになってくる。今日は久しぶりに飛翔から呼び出しがあり、大学近くのカフェで会っていた。 「え?赤ちゃんって言った?」 「うん……。実はさ、この前の春香発情期だったんだけど、余裕なくてそのまましちゃってさ。ははっ。今2ヶ月なんだよ。」 「………まじか。」 飛翔の番が妊娠した。いつもはアフターピルを飲む余裕があるらしかったが、今回は発情期が凄かったらしく春香さんにそんな暇を与えなかったらしい。そんな人のsex事情まで詳しく言わなくていいが、好きすぎて大変なんだとアピールしたいようでマシンガントークだ。まだ大学生だけれど、あと2ヶ月で卒業という時期の為、親からもお咎めなしで良かったとしきりに言っていた。 「そっかあ……。飛翔がお父さんか……。想像出来ねーなぁ……。」 「俺もまだ全然だよ。でも春香と子どもは絶対に幸せにしたい気持ちはすごくある。俺の命に変えてもね、絶対守ってみせるって感じだ。」 「……いいじゃん。しっかり守ってやらないとな。お父さん。」 「ふははっ。雪雄から言われるとくすぐったいな。」 そんな幸せそうな友人の顔を見ながら、メロンソーダを飲んでいると一人で感慨深くなった。 (俺……飛翔のこと、諦めついたんだな……。) 自分の気持ちを確かめるように手を胸に当てる。そこは一時、嵐のように荒れていた場所だ。でも今は嵐が過ぎ去った後のように壊された残骸だけが残っている。 赤ちゃんが出来たと聞いて、全く負の感情が無いと言ったら嘘だ。羨ましかったり、もやもやしたり、嫉妬に似た感情はまだ存在する。でも感情の起伏は穏やかで、振り回されない。きちんと友人として接することが出来ている。 「お腹が出るからウエディングドレスがって嘆いてたよ。そんなの気にしなくても可愛いのにな。」 惚気も相変わらず盛りだくさんで、俺は呆れながらも、そんな飛翔を眩しく感じながら耳を傾けた。 これなら6月の結婚式も友人として心から祝えるだろう。心からの祝言だ。よかった。俺は友人としてこれからも飛翔と付き合っていける。 こうやって立ち直れたのは弓弦のおかげかもしれないと感じていた。振り回されながらもずっと一緒にいて、俺を受け止めてくれていたのは弓弦だから。 それから飛翔と話しながらも、強引で自己中で、sex中毒の顔がチラチラと頭に浮かんでは消えていた。

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