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光のない場所にて
身体はただ人形のようで、上からくる振動に揺さぶられる。窓の外は暗くて微かに灯ったあかりが自分の上を覆う男の強さを浮き彫りした。
ぼうっと灯りでたまに白く反射する髪の隙間をぬって天井を見つめる。シミひとつない真っ白な天井は光に何も感情をくれなかった。
「ねえ、光、こっち見てよ、ねえ」
男は金髪を垂らして顔を光に寄せる。火照った体は熱を発散し、額からはいっぱいの汗が滴っている。男の色香にアルファのふんだんな匂いを感じた。
男は金髪も汗で濡らしながら、光の顔面中にキスをふらす。光はどこかで「本当にいつも飽きないよなぁ」とぼんやり思った。頰にキスを落とし、そのまま唇をまた大きく包み込まれると舌が侵入してきた。ただ自分勝手な動きに光は抵抗を見せずそのまま舌を乗せた。
ぼんやりと白い天井を見る。このまま俺はどこへ行ってしまうんだろう。地獄に行くならさっさと連れてってほしい。
金髪が大きくまた揺れた。
顎を物凄い力で鷲掴みにされ、顔が固定される。アルファの男の顔が天井を遮って上から覗き込んだ。
「光」
甲賀が光を見て笑った。
光は一気に胃の中が逆流して、喉に泥のようなものが這う感覚がした。甲賀はパッと手を離す。光は急いで甲賀から顔を背けたが、嘔吐感は拭えず、そのままベッドの上で顔を横にして吐いた。光が吐瀉物を出し終えると、甲賀は光を抱きかかえてベッドの上から立った。
「あーあ、光まだ慣れないね。これでシーツ6個目無駄にしたね」
甲賀はそう言って光の目元に優しくキスを落とした。しかし、光はその甲賀の言葉にまた嘔吐感を感じた。
甲賀はリビングへ行き、裸の光をそっと大きなソファの上に寝かせる。唇の周りは甲賀の舌がべろりと這って綺麗にした。
光は今まで甲賀とのセックスで6度嘔吐した。甲賀は俺の顔を見つめてフィニッシュを迎えたがる傾向がある。今回は精子を出されずに済んだが、ひどい時は顔面吐瀉物と精液まみれにさせられたことがある。俺が吐いていても中に精子を流し込まれることもあったし、吐いた口の中を舌でいじくりまわされたこともある。本当に気色の悪い男だ。そしていつまでも俺を惨めに突き落とす、本当にアルファは嫌いだ。
「光、水だよ。あと、これ避妊薬」
光はソファに横たわりながら調子の優れない体で甲賀から水と薬を受け取り飲んだ。
甲賀は基本的にゴムをつけてセックスはしない。大概が生だ。オメガである俺はいつ妊娠しても仕方なく、ピルを飲む以外方法はなかった。しかし、光はそれがただのビタミンサプリメントとは気づいていなかった。
甲賀はソファの下の地面に座り込んだ。ソファは光が占拠していて座る隙間はない。
甲賀はソファの方へ体を向き直ると、光の髪を優しく撫でながら目尻にキスを落とした。光は目を開けたくなくてそのままつむったままにする。甲賀はそのまま光の顔肌を愛しみながら指でなぞった。
「光、やっぱり目を見るのは怖い?」
光は目を閉じながらコクリと素直に頷いた。甲賀は指を這わせたまま「そうか」と呟いた。
目を瞑った瞳の先は深い深い闇だ。誰からの視線も誰の視線も見なくていい。ただ黒いだけ。
光の体はゆっくりと緊張がとけていった。
「光、おやすみ」
甲賀は眠った光を抱きかかえると風呂場へと向かった。
何か真っ白になっていく感覚がした。意識が浮上してきて、頭がガンガンする。眉がキュッと寄り、ゆっくりと目を開ける。しかし目を開けても光は届いてこず、真っ暗なままだった。
「…え?」
「光、起きた?んっ、んんっ」
甲賀の声と共に光は下半身に強烈な快感が走った。なにか暖かくてたまに濡れたものが触れて気持ちがいい。真っ暗な中意識してしまった快感に息が溢れてしまう。
「っあっ、ああっ」
待ってと快感の走る方へ手を伸ばす。すると柔らかい髪の束が手の指をすり抜ける感覚がした。髪に手をかけると、より暖かい吸い付きが強くなった。
「ああっ!!」
「ひ、かり、きもちいい?ん、ん、ここすき?」
暖かい空気が上に集まり、尿道の入り口を突いた。ピリリとした快感に腰が揺れる。甲賀は「ふふっ」と笑うと、吸い付きながらそこを念入りに責め始めた。
じゅるじゅると激しい水音がして、今甲賀の口でペニスを舐められているとわかった。相変わらず前は真っ黒しかなく、ただ股間にくる強い快感に腰をくねらせた。甲賀は大きく口を滑らせながら手を穴に這わした。濡れていた穴には指がすぐ入り、甲賀が中で指を折り曲げては快感のツボを擦った。
また感じたことのない気持ちよさに光は体を震わせた。目の前がなにも見えなくて何をされているのか次に何が起こるのか、全くわからない。ただ音と肌からくる快感だけが光を支配していく。光は甲賀が大きく吸ったのと同時に甲賀の口の中に精子を解き放った。暖かいものに包まれたままイク感覚。光はなんとそれが気持ちいいんだろうと体を弛緩させた。
甲賀は後ろの穴から指をゆっくりと抜きひいた。甲賀からはぱっくりと光の中が甲賀を欲しがっている様子が見えているが、光は半ば放心状態でその様子に気づいていない。甲賀は光の背中と太ももに手を回しゆっくりと担ぎ上げた。
「え…?おふろ…?」
「ううん、イイところつれていってあげるよ」
甲賀はいつものように目元にキスを落とした。その瞬間まぶたに布地が当たって、光は布で目隠しされていることにこのとき気付いた。
安定した足取りで部屋を移動する。ドアの開いた音がして、光は気がつけばまたふわふわとしたベッドの上に敷かれた。
「光、キスして」
甲賀がそう言って上にのしかかってきた。目隠しをされて見えていないが、気配だけで甲賀の口元へ触れるようにキスをする。やんわりとした感覚が光の唇に伝わった。甲賀はそのまま同じように光へ優しく触れるキスを落とした。小鳥が啄むように軽いキス。光の唇だけ甲賀はさらいながら、光の肌へ手を伸ばした。
光の肌を弄りながら、手の指先が乳首や敏感な腰の溝をなぞる。甘ったるく光の体をもてあそぶ甲賀に光は内心ドキドキとした。それは嬉しいドキドキではない、嫌なドキドキだ。彼は俺の全身の力を奪いとるようなセックスが多い。体全身が甲賀に支配され、人形のように動かない。ただ甲賀に従うまま揺すられる、そんなセックスだ。一方、今日のようなまるで俺の反応をもてあそぶような触れ方には全く慣れていなかった。彼の行動や心が見えない。予測がつかないから弱いところを思わず触られて反応がいつもより過敏になった。
甲賀はある程度すると、その覆いかぶさったまま光の体を抱き起こした。ゆっくり腰回りをなぞりあげては尻の縁をたどり、光は背筋に電気を走らせながら喘ぎを漏らすのを耐えた。
体が背中から暖かく包まれた。甲賀の肌が触れたのが感覚でわかった。尻には暖かくて硬いものが擦り付けられている。Ωの光はその感覚にクラクラした。子宮の入り口が興奮してキュッと締まった。
甲賀は擦り合わせながら入り口に先端を触れさせ、ある瞬間グッと中に押し入れた。
甲賀が中に入っていく。この感覚は甲賀に内まで侵食されていく悔しさとΩの体に組み込まれた快楽を刻み込ませ、光はまた泣きそうになった。
甲賀の振動が始まる。甲賀が光に打ち付けて、イヤらしいパンパンッという素肌のぶつかる音が部屋中に響き渡る。甲賀の肉棒が光の気持ちいいところへ狙い始めた。光は次第に声が大きくなり、悔しさや泣きそうな思いはとうに忘れて快楽に貪欲に身を委ねていった。
「あ、ああっ、きもち、きもちいい…!」
「ひかり、ひか、りっ…」
光は無意識に気持ちいいと口走る。気持ちいいと言葉にしたとき、中から溢れるように大きな快感が解き放たれるのだ。光は快楽のもと、夢中で『Ω』に成り下がった。それに応えるように甲賀は首の後ろに口を這わせた。暖かい舌がうなじを這い回る。光はその感覚に身体が悦んでいるのをひしひしと感じた。
はやくそこに刺激が欲しい。痛くて血が滲むような刺激。全身でイッてしまうぐらいの強くて甘い縛りが。
甲賀の歯がチクリと当たった。これ。これが欲しい。甲賀進の、肌を硬くちぎってくれそうな…。
「歯が欲しいよ、進っ」
「ひかり、やっと名前、ん、はぁ、呼んでくれたね。ご褒美あげる……」
甲賀はベロリとうなじを大きく舐め上げた。光は歓喜にふるえた。はぁ、早くちょうだい。大きな大きな今までにない、強い、強い快感を。
目の前が真っ白に広がった。
しかし、首の後ろの痛みはなかった。
ぼんやりとする視界に大きな影が一つあった。
前をただだらしなく見つめていた光の焦点があっていく。
快感でのぼりつめた高揚感は布が擦れた音で消え去った。甲賀の手には光から解かれた黒い布紐が収まっていた。
「光…これが俺たちだよ」
大きな大きな鏡の前で、甲賀に覆われた光は淫乱な身体をそこに晒し出していた。
光の芯は赤くきつそうに持たれあがり、興奮して垂れたヨダレが口をはしたなく汚している。沢山の鬱血した赤い花びらが光の全身に飛び散っていて、その身体はとんでもなく卑猥だった。そう、性にまみれた光が目の前にいた。
「い、い、いやああああああっ」
光は悲痛な叫び声を上げた。頭がガンガンして目の前の映像を拒絶している。しかし、甲賀はその様子を光の肩から美しい笑顔で見ていた。
「はぁ、光、見て…こんなに俺たち一つになったんだよ。光のここは俺を受け入れてすっごく幸せそうだね」
甲賀は前に手を伸ばし、甲賀と光の繋がった部分をなぞり上げた。甲賀のうっとりとした甘い声に光は泣き叫んだ。
「やだぁあ、やだ、やだぁぁぁあ!!!」
「光、今更恥ずかしがっても遅いよ?光の中にいっぱいいっぱい俺を出してきたじゃない。早く俺たちの赤ちゃんうまれるといいね」
光はパニックで大きく騒ぎ立てることしかできなかった。甲賀が言ってる言葉も聞き取ることも理解することもできない。気持ち悪い、助けて、助けて。はやく、はやく、ころして。
グッと甲賀の雄が中を押し上げた。泣きじゃくる光に甲賀の律動が始まったのだ。
「ああっ、あがっ、うあああっ」
先ほどまでの比じゃないほどの揺さぶりにほぼ叫び声に近い喘ぎを光はあげる。甲賀はそんなのお構いなしに興奮で光を責め立てていく。
「光、光、ひかりっ。さあ、見てて、俺たちが、俺たちの運命になる瞬間を…!!」
大きく髪を引っ張られ鏡の前へ顔を突き出された。その瞬間、大きな強い引き裂くような痛みがうなじへ駆け巡った。
目の前がチカチカと飛び散り、恐ろしい獰猛な甲賀の目が光を捉えてうなじを噛み切る様子が瞳に張り付いた。
光は、やっと地獄へ落ちたのだと歪に口端を歪ませた。
光は真っ白い世界にいた。真っ白いベッドの上に光はいて、鏡の壁は様々な角度の光をうつしていた。
ああ。なんて、惨めな悪魔がここに映っているんだろう。光は吐瀉物を吐きながら、そう思った。
ガチャリとドアが開く。身体を安心感に包む香りがした。
「光」
嘔吐していた気分の悪さが払拭されていく。優しい声に顔をあげれば、美しい男が微笑んでいた。なによりも明るく輝く金の髪が美しくてとても愛しさが湧いた。手を伸ばせば、美しい男はその手を優しく包んで頰へ触れさせた。自分の汚らしい体が全て浄化していくようだ。
「光」
もう一度男が自分の名を呼んだ。
光は藍の目に涙を浮かべた。感情が溢れて止まらない。
「進…」
目を開けてαを見つめた。
αはそれに愛しくこちらに微笑んだ。
ああ、君は、君はなんて……。
恐ろしい悪魔なんだ。
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