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第4話
ああなんということ。
なんということだ。
目の前に極上の果実がある。芳しい匂いをこれでもかというほどに振りまいて、かぶりつかれることを待っているのに、それを覆う鉄の枷がどうしても外れない。
無理やり引き裂こうとしても、かみ砕こうとしても、それはヴァージルが牙を立てることを阻んでくる。
ヴァージルをその芳しい果実から引き離そうとする奴隷たちも邪魔で仕方ない。振りほどいても振りほどいても群がってくる。
「旦那様、旦那様おやめください! 誰か、旦那様を……!」
「ええいうるさい!」
男が突き飛ばされて壁際に倒れこむ。別の男が蹴り飛ばされて床に転がる。ついには執事も頭を打って気を失った。この館にいるのは、ヴァージル以外オメガとベータばかりだ。一人二人の抵抗など、アルファであるヴァージルには通じない。
ヴァージルはいつになく猛っていた。いかに周りのすべてがヴァージルを阻もうとしても、そんなものはこの芳しい果実の前では無意味。
部屋に邪魔者はいなくなった。寝台に鎖でつながれた果実は、全身を朱に染め上げて、蜜であふれた蕾にヴァージルの雄を受け入れんと、震わせている。
そしてそれとは反対に、力ない腕で戒めの鎖を引きちぎろうともがく哀れな子羊は、せわしない呼吸を繰り返し、自分に覆いかぶさるケダモノに強い敵意の眼差しを投げ掛けている。
なんと矛盾した、ささやかな足掻き。
思わず舌なめずりをしてしまう。普段なら決してそのような品のない真似はしない。しかしこの果実の前ではなにもかもがどうでもいい。
赤みがかったやわらかい毛を頭ごと鷲掴む。痛みにオメガの整った切れ長の目元がゆがむのに一層欲望が沸き上がるのに任せ、ヴァージルは己の雄をそのオメガの中に一息に突き入れた。
その途端の、言い表しようのない快感。
「っ――!」
「ははは、あははは! なんだこの感覚!」
荒々しく突き、オメガの肉が裂けるのも構わず激しく揺さぶり、求める。
体の下でオメガが轡に声を封じられてなお、全身で絶叫するのがわかる。
最奥を突き破るほどに、何度もたたきつけ、そこに何かを植え付けようとするように、何度も何度も絶頂の精を放つ。
初めてだった。こんな、我も忘れるほどの欲求。
ほかのオメガとの交わりなどとは比べ物にならない。あのジェフリーとの逢瀬などとも。
全身が熱い。何度吐き出しても、狂ったように身の内に熱が沸き上がる。
そのたびに我を忘れてオメガのうなじに噛みつく。鉄の首輪は壊れない。
それが何のためにあるのか。その行為が何を意味するのか、そんなことはどうでもよかった。
その時のヴァージルは何もかも忘れ去っていた。それが番を求めるアルファの本能だということなど。
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