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俺は大きく息を吸った
「だけど俺もそう思った……なんか生まれ変わったみたい。あざみのものとして生まれ変わったみたい」
恥ずかしそうに言っていたけど、正直俺もそう思った。
番の契りってすごい。結婚とはまた違う。
俺は彼の特別になった。
αでもないし、双子でもないけど、俺は彼の唯一無二の大切な人になった。
死ぬまでずっと一緒にいてもいい人になった。
……なったんだな。
死ぬまで……いや、例え死んでも、もう絶対に離れない。
「生まれ変わったらなにになる?」
唐突に萼が俺に問う。
「くじら」
即答した俺に彼は笑った。
「52Hzで歌ってね。俺だけ絶対に聞き取って地球の裏側にいてもあーちゃんを見つけ出すよ」
「それじゃあお前にしか聞こえねえじゃん」
「俺に聞こえるだけで十分でしょ」
「確かに……いや、そんなことなくない?」
「そんなことあるでしょ」
「そうかな」
「じゃあ早速歌って、あーちゃん」
すっかり忘れ去られていたギターを手に取ると、萼は昔と同じように旋律を奏でる。
C、C7、 Fmaj7、E7、Am7……解けるようなアルペジオ。
「この曲好きだな、萼は」
「だって初夜だよ」
「ちょっと意味違うだろ」
「始まりはこの曲じゃなきゃ」
熱のこもった視線で俺を一瞬見やる。俺はそれに答えて口元を緩めた。
「あーちゃんの声で聞きたいな」
イエスを確信している言葉に、俺は静かに頷いた。
「いいよ」
聞き慣れた懐かしいメロディ、彼の奏でるギターの音色、ヘッドで悠々と泳ぐ銀のくじらを目にしながら、指輪にキスして、俺は大きく息を吸った。
終
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