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第1話 一会

段々と寒くなり始めた秋の暮れ。そして、今の時刻は午前三時だ。当たり前だが、普通に寒い。その中を俺は防寒具なし、学ランで帰宅していた。因みに俺は中学二年生だ。 「…白っ」 吐いた息は真っ白で身もブルリと震えた。 寒さのせいか、切れた唇が痛み出した。痛みには強いはずなんだが。家に消毒液はあっただろうか…でも、もう寝たい。明日は学校だが、今寝たら明日遅刻だろう。義務教育中は出席日数が足りなくても三年生にはなれる。それに、俺なんかが来ない方が皆安心するだろう。まぁ、テストは真面目に受けてるし、基本いつも三桁満点の点数だ。こういう時ばかり小学生の時の家庭の教育方針に感謝だ。 明日の学校は休むと決め、ゆっくりと家路につく。制服のポケットからケータイを出し、再び時刻確認。何しろ帰宅するまで手持無沙汰なのだ。たぶん走れば二十分くらいで着くが、今日は走りたくない気分。そうなると、走って帰る時より約二倍掛かる。深夜だから、話し相手なんているはずなく、出来ることは時刻確認ぐらいだ。 スマホの電源ボタンを付けたり消したりを繰り返していたら、 「……声?」 人の会話声が聞こえた。大声ではなかったが、風に乗って微かにに聞こえるくらいだ。空耳かもしれないが、こんな時間に二人、若しくは二人以上が集まるなんて基本ありえない。あるとすれば、俺みたいな不良と呼ばれる奴らの集まりくらいだ。でも、この辺りを纏める不良の集まり、チームは一つしかなく、それにそのチームの元総長は俺がお世話になってる人で、こんなに夜遅くまでチームのメンバーを集めたりなんかしない人だったため、それ以降の総長もそれに習い、緊急時以外深夜に集まるのを止めた。 ということは、この声の主は一般人か変質者のどっちか、か。どっちにしても会ったらめんどくさいことになるのは、すぐにわかる。なのに、 「行ってみるか」 足は家路から大きく外れ、真っ直ぐに声の方向へと進みだした。 声がする方へ歩く事数分、辿り着いたところは、俺たちの地区では有名な高級住宅街だった。そして、俺が中学に入学してからとある事情で一年間を過ごした家がある場所。俺が二番目に嫌いな月島(つきしま)家がある場所。 「……来る気なかったのに………クソッ」 舗装された地面を蹴るとじんわりとつま先に痛みが広がった。 頭を二、三回振り、辺りを見渡すとぽつんと玄関へと続く階段に座り込んでる男の子供を見つけた。子供は小さく丸まっていて、まだ俺に気づいてないようだ。 こんな小せぇ奴が声の主だ想像してなく、心配になり子供へと足を進めた。 だが、 「……っ」 子供の向かいの家がまさかの月島家だった。 一気に体の体温が奪われた気がした。思わず子供なんかほっといて逃げ出そうと、一歩後退しが、『ザッ』と足音を立ててしまい子供が顔を挙げた。目をキラキラと光らしながら子供は口を開いた。 「…えっと、おはようございます?」 「………深夜だからその挨拶はおかしいだろ」 「えっ?、挨拶におかしいとかあるんですか?」 「あるだろ、時間帯によって挨拶の言葉が変わるんだよ」 「は、初めて知りました!。お兄さん、物知りですね!」 「……というか、寒くねぇの?」 その子供は、秋の暮れというのに半袖シャツに短パンという見てるこっちも寒くなるような恰好をしていた。子供と俺の間には、それなりの距離があるがかたかたと震えてるのが分かる。なのに、子供は何を言ってるのかわからない様子で首をこてんと傾けただけだった。 「寒いですよ?」 「寒いならなんで上着とか着ねぇんだよ。厚着しろ、厚着」 「えっと、服、これくらいしかなくて……、千冬(ちふゆ)…妹のは女の子のだから着れなくて。だから、寒いけど我慢です。それに、もうそろそろお日様が出れば暖かくなるから大丈夫です。心配かけてごめんなさい?」 「………………バカか」 子供は俺の発言にきょとんとしたが、直ぐに違いますと反論しているが無視。 こいつが言うには、服が今着ている分くらいしかないということだ。でも、どう見てもこいつの家は服一着しか持ってない、買えないと言うほど貧乏な家には見えない。寧ろ何着でも買えそうなほど裕福な部類だろう。妹はどうかわかんねぇんが、こいつは一着しか買ってもらえてないのだろう。 それと少し話したがどう見てもこの子供は一般人。まぁ、挨拶があやふやがから常識外れっぽいが一般人だ。だが、こんな時間まで外に出されてるってことは……。半袖だから、見えている赤や青の痕も俺の予想に確信を与える。 「お前、なんでこんな時間に外に出されてるんだ」 「…………お母さんに怒られて……」 子供の声は段々と小さくなり、頭も下がっていく。 予想が確信に変わり、一つ息を吐き出し、じっとこいつを観察した。そして、気づいた。目をきらきらさせてたさっきの子供はいない。俺と同じ、何か諦めた目をしており、俺は 「…………っ」 体が震えた。 俺と同じやつがいた。その事実が嬉しかった。変だが、仲間意識を感じた。仲間がいた。独りじゃないのだ。 「…………東雲(しののめ)(みなと)」 「えっ?」 「俺の名前は東雲湊。お前は」 「……っ!、桜井(さくらい)(なぎ)です!。桜に井戸の井に、風が止まるって意味の凪です」 空に自分の名前を描く桜井凪。最初に見た、キラキラと目を輝かせながら。

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