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第2話 紹介
凪said
お外に出されてもうどれくらい経ったんだろう。時間なんてわからなくて、わかることはお月様が真上から西に動いてることと、僕以外外に誰もいないことだ。
「……寒いねぇ」
話しかけても返事なんて返って来るわけない。わかっていても言葉があふれてくる。病院でも独り言が多くて注意されてたっけ。
「千冬はちゃんとお布団入ってるかな。……流石に寝てるよね、ならよかったぁ」
追い出された時千冬は僕のせいで泣いてた。家に入れたら謝らなきゃ。何で、お兄ちゃんが謝るの!とかいいそうだなぁ。想像したら面白くて、ふふっと声が出た。
でも、流石に独りで笑うのは気持ち悪い。慌てて手で口をふさいだけど、自分で思った気持ち悪いって言葉に少しショックで頭が下がった。
やっぱり僕って気持ち悪い、だから、お母さんもお父さんも近所の皆も僕を見てくれないんだ。悶々と考えたら、目に涙が溜まってきた。
もう少しで零れるってとこで
『ガサッ』
と、少し離れたとこで音がした。
さっきまで誰もいなかったからびっくりして涙が引っ込んだ。そして、顔を上げてみると街灯に照らされていた眼鏡をした綺麗な男の人が立っていた。
男の人の名前は東雲湊さんって言うらしい。名前まで綺麗だった。
「あー、凪は何時までそんなとこに座ってるつもりだ?。家のどっか空いてねぇの?」
湊さんの質問に首を横に振る。
鍵が空いてる所はあるけど、お母さんに家の中にいたってバレたらもっと痛い目に合うのはわかってる。だから、いつも朝になってお母さんが起きたくらいに静かに家に入ってる。
「ふーん」
と、東雲湊さんは呟きながら僕の隣に腰かけた。無意識に体が縮こまる。こんなに近くに人がいるなんて……病院の先生と千冬以外の人だと初めてで嬉しいけど緊張する。
「東雲湊さんは、帰らないんですか?」
「…………何でフルネーム」
「え?。………なんて呼んでいいのか分からなくて」
「普通に呼べよ。フルネーム以外で」
普通?。普通が分からなくて、どうしよう。
んーーと、考えこんでいたら
「湊でいい」
呆れてるような顔をして東雲湊さんは言った。けど、
「で、できません!」
「は?なんで」
「だだって、湊さんの方が年上だと思うので呼び捨てなんて…」
立ってても、座ってていても僕より頭一つ以上背が高い湊さん。こんなに背が高いんだ、僕は十五歳だけど湊さんは何歳なんだろう。高校生くらいかな、どっちにしろ僕より大きいんだから湊なんて呼べない。それに、こんな僕が慣れなしく呼んじゃいけない。
「年上って言っても、俺十四だぞ?。三月で十五になるけどよ」
「……………ぼ、僕よりと、年下!?」
「は?」
湊さんも驚いた顔をした。でも、僕も吃驚した。こんなに背が高いのに僕より下だったなんて…。この前誕生日を迎えたから十五歳なだけだから、実際は同い年。こんな綺麗で大きい人と同い年って変な感じがする。
「…凪は何歳なんだよ」
「この前十五になりました!」
「じゃあ、同い年か?…ちっさ」
「い、今は小さいですけど、直ぐに大きくなるんですからね!!」
くくっと笑われたけど、全然面白くない!。むー、絶対湊さんを抜かしてやるんだから!と、僕が意気込んでたら
「同い年なら呼び捨てにしろよ」
「へ?」
「"湊"って呼べって言ってんの」
「むむむ無理です!!!」
「なんでだよ」
と言う湊さんは眉間に皺を寄せ、少し怒った感じに言ってきたから怖い。でも、呼び捨てはできない。だって、こんな僕が呼び捨てにしていい筈がないんだもん。
ふるふると首を振り続けたら一つのため息。僕じゃないならため息した人は一人だけ。呆れられたよね、そう思ったら涙が滲み出した。でも自分のせいだからと、慌てて頭を下げて涙目を隠す。
「じゃあ、渾名とかで呼べよ。呼び捨てができねぇんだろ?」
ぽんっと頭に少しの重みが乗った。その衝撃で一粒涙が零れた。
僕が我儘言って困らせたのに何で優しく撫でてくれるんだろう。
「今度は泣いてんのか?。笑ったり、慌てたり怒ったり泣いたり忙しい奴だな」
また面白そうに笑うけど、ぽんぽんと撫でる手はやめない。そのせいでもっと涙が出てくる。話しかけてくれるだけでも、先生と千冬以外は初めてで撫でられるの尚更初めて。
「凪。渾名で俺のこと呼んで」
俯いた顔を覗き込んでくる湊さん。
泣いてる顔を見られるのは恥ずかしいけど渾名を考えなきゃと、ゴシゴシと頬を伝う涙を拭いて、頭を動かす。
「……………み…って……」
「ん?なんて言った?」
「み、みぃって呼んでいいですか?」
「可愛い渾名だな、了解」
ふっと綺麗に笑う湊さん…みぃ。気に入ってもらえたみたいでよかったと安心したら、頬が緩んだ。
「……なーちゃんは笑ってた方が可愛いな」
「え?」
「"なぎ"って呼ぶより、"なーちゃん"って呼んだ方が可愛げあるからお前っぽくて。駄目だったか?」
首を傾げながら聞いてくるみぃ。僕が可愛いとかよく分からないし、、恥ずかしくもあるけど嬉しい。だって、渾名で呼ばれるのは初めてなんだもの。
「う、うん!。凄くすっごく嬉しい!。僕、初めて渾名付けてもらった!」
「こんなんで喜ぶとか単純だろ。……凪のことなーちゃんって呼んでいいのは俺だけな」
「えっと、わかった。呼んでくれてありがとうございます!」
何でみぃだけなのか分からないけど、僕の事をそう呼んでくれるのはみぃだけだと思うから頷く。みぃは僕の返事に、口元を緩ませた。
「礼を言うほどのことじゃねぇけどよ。つかさ…」
「ん??」
「敬語やめね?、同い年なんだしよ」
「あ……」
「嫌って言うのはなしな。これから敬語はなし」
無理とかいうのは見破られていたみたいで、断れなかった。でも、何だか嬉しかった。だって、渾名で呼び合うのも敬語なしで話すのも、みぃにちょっと近づけた気がするから…。
本当は恐れ多い気が拭えなかったけど、緩んだ顔を隠さず僕は大きく頷いた。
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