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第3話 約束

渾名を作ったり、敬語をやめさせたりして、何だかんだなーちゃんと会話を重ねた。 表情がコロコロ変わって面白い奴だなと、思った。まぁ、その中でも泣いた顔が一番可愛かったことは内緒にしておこう。 「あっ、少し明るくなってきた!」 「……本当だ」 東の空が少し白くなってきていた。ポケットからスマホを出し時刻を確認すると、もう五時になりかけていた。ここに来たのは三時頃だったはず。二時間はこいつと一緒にいたのか……あっという間だった。 そんなこと考えてたら、隣からくわっと可愛らしいあくびの声がした。 「眠いのか?」 なーちゃんは目を掻きながら、先ほどよりゆったりとした声で言った。 「少し…だけ、眠たい……」 「まぁ、五時だしな。…あんまり目を掻くな、赤くなるぞ」 「うぅ…」 なーちゃんの手を掴み、目を掻くのをやめさせるが、なーちゃんはうつらうつらと船を漕ぎながら、一生懸命俺の話を聞こうと起きようとしてしていた。無理に起きてなくてもいいんだが、 「外で寝るのも…な」 もうそろそろ朝になるとしても秋の暮れだ。健康な奴が外で寝たとしても風邪を引きそうなのに、見た目からにして身体が弱そうなこいつは絶対風邪を引く。だから、安心して寝ろなんて言える訳もなく。 「なーちゃん、何時も眠くなったらどうしてたんだ?」 既に俺の肩にもぞもぞと寄り添って寝ようとしていたなーちゃんに声をかける。 「ん………いつも…眠く…な、い」 「朝まで起きてるってことか?」 こくんと頷くなーちゃん。もしかすると話したりして疲れたからってことか?。 俺が来なきゃ、多分なーちゃんは一人で夜を越すのだろう。でも今日は俺がいた。確かにこいつは興奮気味に話したりしてたし、泣いたりしていた。やっぱり疲れて眠いってことか。 「……どうすっか」 悩んでても、悩みの種のなーちゃんはもう半分夢の中で俺の制服を掴みながら寝ている。 学ランを貸そうかと思ったが、掴んでるため脱げない。 「手、外してくんね?」 「……………や」 ふるふると首をゆっくり振られた。 学ランを指さしながら、 「これ脱ぎたいんだが」 「……や」 「なんでそんなに嫌がるんだよ。脱ぐだけだから」 「………みぃ、どっか…いちゃう」 「は?」 「いなくなる…か、ら」 脱ぐだけってさっきから言ってんだが聞こえてない様で、”や”しかいはないなーちゃん。流石にこんな状態の奴を放置するほど薄情ではない。 「どこにもいかねぇよ」 「行く……帰えちゃう、もん」 こいつは手を放したら俺が帰ると思っているらしい。まぁ、こいつが家に入ったら見たら帰るつもりだった。でも、なーちゃんは帰って欲しくなかったらしい。………どうしたもんか。 「………なーちゃん」 「や」 「また来るからちょっと放してくんね」 「……また?」 「あぁ。んー、明日また来るって約束する」 「ほ…んと?」 「出来ない約束はしない質だから俺。明日、今日と同じ時間位……いや、深夜12時までにはここに来る」 「…………ん」 満足そうに笑い、やっと手を放してもらった。 急いで学ランを脱いでなーちゃんに羽織らせる。何も羽織らないより少しはマシだろう。 でも、明日もここに来ることになってしまった。”あの家”が視界に映り、不快感に苛まれるここに。 「まぁ、約束したしな」 やらかななーちゃんの髪を撫でながら、半分諦めと楽しみを心に浮かべながら、明日もここに来ようと決めた。

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