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天丼

  2007年10月19日、辞令が下る前日やけど下るはずがないから呑気におでんを追加して会計を済ます。 その後、迷わずに黒いコートを着たツンツン頭の男性の横に座る俺。 俺は黙って焼きそばパンを食っとったけど、隣の人のおでんのタコを見て思わず声をかける。 「牛カルビ串やるから、タコ串くれや」 慣れた口調でいう俺をジロリと睨んだものの、ため息を吐いてから俺のおでんのフタを引き寄せた彼。 男性とか彼とかめんどくさいわ……アサやねん。 せやから、返ってきたフタに乗っていたのはタコではなく、俺の大嫌いなきのこ類のブナシメジやった。 「何年付き合ってんねん」 皮肉に言うと、きのこが盛りだくさんの炊き込みご飯を頬張りながら平然とした顔をするアサ。 「8年やろ」 「わかるやんか」 「わかってるからやってんねん」 滅多にお互いを見つめ合わんのに、なぜか見つめ合ったからえへへと笑う俺とアサ。 そして、嘘のように黙って食べる俺たち。   「やっぱタコ串やるから、先に牛カルビ串くれへん?」 今度はアサがおでんのフタをくれたから、ピリ辛のきゅうりを小山くらいに持って渡した。 「ちょっ、ハヤ……俺いっちゃん嫌いなの、知って るやろ!!」 白い顔が瞬時に赤くなり、クールで通ってるはずやのに声を荒げるアサ。 俺はきゅうりを口いっぱいに頬張りながらクククッと笑う。 「何年一緒におると思とんねん」 「8年やろ?」 「ならわかれや」 「わかっとるがな」 「俺ら仲ええからな、えへへ」 1人で笑うアサに顔を背ける俺。 「お前もやれや! 俺1人めっちゃ恥ずいやん」 はっず!と何回も言いながら顔を両手で仰ぐ姿を見て、相変わらずおもろいやつやなと思って心から笑う。 アサは捜査一課の刑事で俺より1つ上の階級の巡査部長……俺の憧れでもあるけど、やっぱ話すとただの友達やわ。 会話が無くても辛くないし、あいつの好きな赤を俺が着て、俺が好きな黒をあいつが着てるから……もう熟年夫婦みたいなもんやねんな。

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