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ブレザー
アサの車に乗り込んで、今日の為の衣装に着替えた後、マトがよく通る公園へと向かう俺たち。
運転はもちろん、アサ……俺は身体も信頼も預けるだけや。
今日のマトは小林英遠 30歳。大手商社の営業部長。
大学のサッカーサークル長だった小林は新大学生で入会してきた俺の兄……早坂紘太 が飲み会でお酒を一切飲まなかったことに腹を立て、無理矢理酒を飲ませて急性アルコール中毒にさせた。
その後、紘太に嫌がらせを繰り返し、ついには集団リンチをして死亡させた。
それなのに、父が政治家だったのといじめだったと認定されたものの殺人罪には問われず、彼は世間的には裁かれないままのうのうと生きている。
そんなつまらない事実を説明しとる間に公園へ着いてもうた。
車から降りて、小林が通るところへハーモニカを吹きながら向かう。
今さらなんやけど、やっぱ言うわ。
「なぁ、アサ」
振り向くと、街灯でうっすら映る赤のネクタイ。
あんな……こう兄が死んだ時、俺は高校2年生やったんやわ。
せやから、高校の制服がいいやろってなったんやけど。
ロン毛のカツラはええねん、ええねんけどな。
「なんでブレザーやねん!」
珍しく荒げた俺の声が公園に響く。
「えっ? かっこええやんか」
なに言うてんのと続けようとしているくらい平然と答えるアサ。
「なにげにお前の方が似合ってるし!」
俺と同い年のはずなのに、違和感が全然ないのが一番腹立つ。
「えっ、そう? まだまだイケんのか、俺」
アサは調子に乗ったのか、紺色のジャケットの胸元を両手で掴み、ひらひらと開いたり閉じたりし始める。
アサは俺といると子どもっぽいんやけど、175cmあるから黙ってればキマんねんな。
それに比べたら、165cmでサル顔の俺はアカンわ。
「俺はハヤの方が似合ってると思うで?」
ため息を吐いた俺にさらりと言うアサ。
「大きくて力のある瞳で見つめられたら、若い女の子はイチコロやわ」
びっくりしてまた振り向くと、アサははにかんだ笑みを浮かべて右手で頬を擦っていた。
「おおきに」
アサに向けて全力で微笑むと、アホと言って目尻を下げて笑ってくれた。
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