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第9話

「柏木さん、最近調子良いんですか?顔色も違うし安定してるように見えますが」 定期的に通ってるクリニックの先生が僕を見てそう言った。 「はあ、少し…眠れるようになりましたし…気分転換も…」 「ああ、何でも良いんですよ。貴方がそれに夢中になり生きる活力がでるならね。」 先生はカルテに記入を始める。 それがでると、診察完了だ。 「それならば、薬も段階的に減らさないといけませんね。今は多過ぎる」 処方箋を眺めながらどれを減らすか先生は考え込んでいた。 「減らすことには異議はないですか?」 「そうですね」 「以前の柏木さんは絶対、薬の数を減らそうとしてなかったからね。良い傾向だ」 先生は処方箋に何か記入したのち、側にいた看護士へ渡した。 「じゃあ次回また。徐々に薬も減らしましょう。夢中になれるものが出来て良かったです」 「ええ、まあ」 クリニックを出て家路につく。 (夢中になれるもの、ねえ、) 街では木枯らしが吹いている。 もう風は冬の冷たさだ。 玄関に到着すると、良い香りが鼻腔をくすぐる。 「お帰り。おでん出来てるよ」 コーイチは最近、僕の家に入り浸っている。 これがクスリを減らせるようになった原因だろう。 「ありがとう」 多分、僕はコーイチが好きだ。 そしてコーイチも僕が好きだ。 【了】

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