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柊の葛藤

 消化に良いものをと思い、柊は雑炊を作り、悠衣の部屋まで上がった。  部屋の前で、トントンというノックと共に、室内に踏み入る。  と同時に、溢れ出る甘い香り。  その香りは柊の本能を引き出し、思わず実の弟に欲情してしまいそうになるのを、何とか理性で柊は抑えた。  ベッドの中でうずくまっている悠衣に、いつも通りを装って柊は声を掛ける。 「悠衣。ご飯、食べられますか?」 「……うう、ん……」  返事か吐息か分からない声を漏らし、悠衣は起き上がった。  どうやら寝ていたようで、潤んだ瞳が定まらない焦点の中、柊を捕らえる。 「柊、兄……」  側にあった折り畳み式にテーブルを出し、その上に柊は雑炊を置いた。  そんな柊の手を引き、悠衣はそのまま、流れるように柊の唇に自身の唇を押し付ける。 「ちょっ、悠衣!」 「……ダメ?」  涙目で下から上目遣いで見られて、一瞬理性が崩れそうになった。  けれど肩を押して距離を作り、そのままその体を引き寄せる。 「貴方の事が、大切なんです。こんな、気持ちではなく体だけをつなげるような行為……貴方に、してほしくはありません。それに、抑制剤も持ってきたので、それを飲んで、眠ってください。そしたら少しは、楽になるでしょうから」  ね? とあやすように頭を撫でると、「起き上がれますか?」とテーブルの前に悠衣を座らせた。 「……膝の、上が良い」  いつもこうして座るときには、悠衣の事を後ろから抱きしめて座るというのが二人の間の日常だったため、隣に座ろうとした柊に、悠衣は縋るような視線で訴えた。  それに唸るような息を漏らした後、いつも通り膝の上に悠衣を乗せる。  悠衣の前で手を組み、悠衣がスプーンを手に取り食べ始める傍らで、柊の目には悠衣の首筋が目に入った。  無意識にペロリと舐めるとビクンと悠衣も反応し、ハッとなって強く抱きしめる。 「すみません。もう、手は出しませんから」 「柊兄……柊兄は、どうして……僕にいつも、こんなことをするの?」 「こんな事、とは?」 「キス、とか」  始まりは、いつだっただろうか。  もう数年前になるだろうか。  最初は、挨拶のようにほっぺにキスをしていたのを、いつからかキスに変わり、段々と兄弟での距離感ではなく恋人のような距離感になっていった。  それに違和感は感じなかった。  それが、当たり前のように互いに接していた。  疑問を口に出したことは無く、二人とも自然にその行為を、感情を受け入れていた。  それに今、悠衣が初めて、疑問を口にする。  それに驚きで目を見開きながらも、自然だと思っていた行為について、柊も考えてみることにした。 「何故、でしょうね……。したかったから、としか……」 「それって、僕の事が、好き……って、事?」 「……そうですね。悠衣の事は、大好きですよ」  悠衣の恋愛の意味での問いかけから逃げ、分かっていながらも柊は兄弟としての愛情を回答した。  遠回しな言い方にけれど、悠衣は笑顔で後ろを振り返る。

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