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そばにいて

「悠衣、悠衣……っ! 起きてください、悠衣!」  体をゆすられる感覚に、目を開ける。 「柊、兄……」 「大丈夫ですか、悠衣」 「うん、ちょっと……やっぱり、柊兄の言った、通り……始まった、みたい」 「……そうですか」  上手く動かせない体を柊が起こし、心配そうに悠衣の顔を覗き込む。 「今、部屋まで運びますね」 「あり、がとう」  はっ、はっ、と短く息を切りながら柊の首に手を回す。  首筋に顔を埋めたところで、甘い匂いが鼻から入ってきた。 (あ……柊兄の、アルファの、匂い)  何故か朦朧とした意識の中、柊がアルファだということが頭の中に浮かんで離れなかった。  普段はアルファだとか、オメガだとかあまり意識しないのに、その時は柊兄がアルファで、自分がオメガだということが、ひどく頭をちらついて。 「……っつ……悠衣、何を……!?」  気が付いたら、柊の首筋を思い切り吸って、甘えるようにそこを舐めていた。 「柊、兄……」 「やめてください。今必死に、抑えているのですから……」  下唇を噛み、欲情した視線を向けられる。  頬は上気しており、軽く息も上がっているようだった。 「……っ……はぁ」  悠衣が止める気配がないことを悟ったのか、止めていた足を動かし、漸くといったように二階にある悠衣の部屋の前にたどり着く。  ドアを開け、悠衣をベッドに下ろした。 「柊兄……いっちゃ、やだ……」  早々に部屋を出ようとした柊を、悠衣が止めた。  柊の腕を掴み、涙目で見上げる。 「悠衣……ごめんなさい、今は……一緒に、いれそうにありません」 「何で……」 「どういうわけか、悠衣のフェロモンが効いているみたいなのです。今悠衣と居れば、僕は悠衣を襲ってしまう」  振り返らず、柊はそう言った。 「今夕飯を作って持ってくるので、持ってきてすぐ、出ていきます……」  言うが早いか、柊は部屋から出て行った。  一人きりになった空間は何だか寂しくて、自身の荒い息が大きく聞こえ、寂しさを紛らわすように悠衣は目を瞑る。 (柊兄……早く、来て)  そんなことを思いながら、悠衣の意識は段々と遠ざかっていった。

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