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さようなら
『悠衣へ。
少しの間、家を出ます。
暫くの間のご飯は冷蔵庫に作り置きを置いておいたので、しっかり食べてくださいね。
貴方とのかけがえのない日々が思い起こされます。
小さいころからずっと見守ってきて、大きくなったら変わるかと思っていたのですが、変わらず貴方は『柊兄』と慕ってくれて。
ですが、私たちは兄弟です。
兄弟は、恋人にも、番にもなれません。
恋人としての私の事は忘れてしまいなさい。
貴方の恋人を、番を探しなさい。
その為に距離を置きましょう。
私たちはずっと、普通の兄弟とは違う距離感でいました。
それを正すために、私は暫く家を出ます。
帰ったら普通の兄弟でいられるように、貴方も心構えをしてくださいね。
では暫くお別れですが、僕がいなくてもちゃんと朝起きたり、宿題をしたり、しっかりしてくださいよ?
好き嫌いも、してはいけませんからね。
貴方の幸せを、僕はいつでも祈っています。
柊より』
その手紙を、悠衣は何度も何度も読み返した。
内容が頭に入ってこなかった、理解できなかった。
そして漸く柊が側にいないと、それだけ理解した時。
「柊、兄……いや……やだよ、柊兄……やだ………いやあぁあぁ!」
ぽとりと手紙を落として、泣き叫ぶ。
それを慰める手は今はいない。
悠衣を置いて、消えてしまった。
恋人として触れ合ったのは、あの結ばれた日からたったの数日間だけだ。
そして無情にも、手紙で別れを切り出された。
好きな人に、自分以外の恋人を探せと、非情にも言われたのだ。
まだその事を理解まではしていないだろうが、悲しくて悲しくて、悠衣は声が枯れるまで泣き続けた。
泣けばいつでも柊が来てくれる。
けれど今、柊は悠衣の側に来てくれなかった。
いくら泣いても、叫んでも、請うても、欲しい手は側にはいてくれない。
それから、何時間が経っただろうか。
もう日が傾き始めた空を窓越しに見ながら、悠衣はラップを外した。
サンドイッチを手にして、それをパクリと口に含む。
「……おいしい」
それでまだ、涙が込み上げてきて。
悠衣は暫く、学校にすら行けなかった。
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