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幸せな瞬間

「……もっと」 「え?」 「もっとして、柊兄」  扇情的な表情をして、悠衣は耐えられないというように柊に口付けた。  それは何度も何度も、拙いキスを繰り返す。 「ま、待ってください! 私だってしたいのはやまやまなんですが、その……ゴムが……」  オメガは、発情期に行為に及ぶと妊娠してしまう。  そのためゴムを用意すべきなのだが、この部屋には当然あるわけがなかった。  柊の部屋にも、どこに置いたか……。  そうしている間にも、悠衣は自分から柊の上に乗りあがって、今にも自分から動き出しそうになった。 「中に、出してもいいから……まだ、足りない……」  何やら、ストッパーが外れてしまったようだった。  今の悠衣はオメガの本能に支配されて、アルファの、運命の相手に縋っている。  発情期だからというのもあるのだろう。  甘い匂いをより色濃くした悠衣は、柊のものを掴んだ。 「分かりました! ちょっと待ってください、今、ゴムを取ってくるので!」 「……逃げない?」 「逃げません」 「分かった」  いそいそと柊の上から悠衣は降りて、柊も軽く衣服を整えて、隣の自室に向かう。  机の中を上から探って、三番目に漸く見つけて、再び悠衣の部屋に戻った。 「お待たせしました。では……しましょうか」 「うん!」  悠衣が両手を広げて柊を迎える。  それに幸せを感じながらも、柊は悠衣を押し倒した。  兄弟ながらも、恋人のように振舞ってきた柊と悠衣。  それは幼いころから変わらない、ずっと守ってきた二人きりの時の関係。  それが破られて晴れて今日、二人は恋人となった。 ――だが、二人は兄弟。  運命であっても、兄弟である。 「柊……兄……?」  発情期も終わり、清々しい気分で階段を下りた悠衣は、ある違和感に気が付いた。  部屋がシンとしており、誰の気配も感じられない。  朝から違和感はあった。  いつもは起こしてくれるはずの柊に起こされず、もう遅刻ギリギリの時間だ。  呆然と呟きながらも、悠衣はキョロキョロと辺りを見渡す。  そして部屋を確かめようと再び階段を上がろうとしたところで、あるものが視界をかすめた。  サンドイッチにラップされている皿の下に、挟み込まれているもの。  四角く折りたたまれたものを開くとそれは、手紙のようだった。

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